事例紹介

【事例紹介】中国における移転価格税務調査リスクの高い企業

Customer Profile
設立:1945年
事業内容:電気製品製造販売
資本金:100億円
連結売上高:800億円
連結子会社(海外):中国、東南アジア、アメリカ、ヨーロッパに30社。1990年代後半に上海、広州、大連に製造工場を建設し中国へ進出

中国に進出して20年以上の老舗企業
思わぬ理由で中国税務当局から移転価格調査において指摘を受ける

世界各国に海外子会社を有する製造業を営む多国籍企業の上海子会社。進出当初は日本本社の業績も好調で、その受注を受けて上海子会社が製品を製造し、日本に輸出を行っていたが、ここ数年は本社を含め、全世界的な業績悪化、上海子会社も赤字に転落していた。コストを切り詰め、何とか工場の運営と従業員の雇用を守っていたが、中国税務当局からの移転価格調査において約2億円の追徴税額の指摘を受け、弊社に調査対応を依頼。移転価格文書(ローカルファイル)の整備を行い、税務調査官との交渉に同席、約半年で当初指摘額を大幅に低減した金額にて調査を終結。

プロジェクト概要

会社の状況と課題

  • 日本からの受注のみで製品の製造を行い、日本に輸出をする上海子会社。
  • 中国の移転価格文書化の作成要件以下の関連者売上であり、過去に移転価格調査を受けたことはない。
  • 近年では上海子会社が製造する製品の市場競争力が低下し、当該セグメントの日本本社及び全世界的な業績が悪化。
  • 上海子会社も赤字に転落しており、利益が計上出来てない中で移転価格の税務調査が入る。調査官は「利益率が同業他社の水準と比較して低い」と言うことで、当初約2億円の追徴税額の指摘。

役務提供内容

  •  日本本社及び上海子会社において同時にヒアリング(調査の経過、指摘事項、事業内容)
  • 日本における同時文書の準備状況、移転価格ポリシー(算定方法)の確認
  • 中国における機能及びリスクの評価、類似企業の選定
  • 日本本社及び上海子会社管理層のニーズを確認し、中国税務当局と折衝

効果

  • 移転価格税務調査の早期終結と調査において指摘された追徴税額の低減
  • 翌年度以降の調査対応及び本社との価格決定ポリシーの明確化

 

≪ 中国において移転価格調査リスクの高い企業 ≫

中国では以下のような企業が重点対象になるとされている。

① 関連者との取引金額が大きい、あるいは取引類型が多岐にわたっている企業
② 長期的欠損がある企業、少ない利益しか出していない企業、利益の変動が激しい企業
③ 利益水準が同業他社より低い企業等
④ 利益水準が、その企業の負担する機能及びリスクと明らかに対応していない企業 (以下、割愛)

上記②、③のような、企業の関連者の収益性が悪く、日本親会社からの発注によってのみ製品の生産を行うような「単一機能生産企業」において欠損が発生している場合には、中国の移転価格税務調査において、思わぬ指摘を受けることがある。「単一機能生産企業」とは、関連者の注文に基づき加工製造を行い、経営政策の決定、製品の研究開発、販売等の機能を担わない企業をいい、政策決定の誤り、稼働不足、製品の滞留等を原因とするリスクと損失を負担せず、通常は一定の利益率を維持すべきである、とされている。つまり仮に赤字であったとしても、このような企業は「赤字になるはずがない。毎期必ず利益を計上すべき。利益が計上出来ないのは中国から他国に利益が移転しているからだ。」との論理により、たとえ移転価格同時文書を作成する必要のない企業であったとしても、中国では税務調査において納税者が受け入れがたい指摘が行われる可能性がある。

 

≪ 中国移転価格税制の概要と同時文書 ≫

関連者の定義

① 持分比率25%以上の直接・間接の出資関係がある場合(親子会社及び兄弟会社)
② 一方の企業からの借入金が払込資本金の50%以上を占めている場合又は借入金総額の10%以上に対して、他の企業の保証を受けている場合。
③ 高級管理者(董事・総経理等)の半数以上、若しくは常務董事の一名以上の派遣(兼務を含む)を受けている場合。
④ 一方の企業の生産経営活動が、他の企業から提供される特許権(工業所有権、ノウハウ等)に依存している場合。
⑤ 一方の企業の生産経営における原材料、部品等の購入(購入価格、購入条件等)が、他方の企業により支配され、若しくは供給される場合。
⑥ 一方の企業の生産する製品若しくは商品の販売(価格、取引条件等)、役務が他方の企業により支配される場合。
⑦ 家族・親族関係等、利益上の関係が有る場合。

中国で認められている移転価格算定方式

① 独立価格比準法
② 再販売価格基準法
③ 原価基準法
④ 取引単位営業利益法
⑤ 利益分割法
⑥ 独立企業間原則に合致するその他の方法

なお、一番多く用いられている算定方式は、④の取引単位営業利益法である。

 

中国移転価格同時文書の規定

提出資料 作成要件 記載内容
国別報告書
国别报告
次いずれかに該当した場合に作成
① 当該企業が他国籍企業グループの最終持株会社で、かつ、その前会計年度の連結財務諸表における各種収入が55億人民元を超える場合
② 当該企業が、他国籍企業グループに国別報告書の報告者と指定される場合
BEPS行動計画13の最終報告を基本的に一致
マスターファイル
主题文档
次のいずれかに該当した場合に作成
① 国外関連取引を行っており、かつ最終親会社等の属する企業グループが概にマスターファイルを準備している
② 年間の関連者間取引総額が10億元超
・組織構成
・企業グループの業務
・無形資産
・金融活動
・財務及び税務の状況
ローカルファイル
(本地文档

次のいずれかに該当した場合の作成
① 年間の関連者間の有形資産所有権の譲渡金額が2億元超
② 年間の関連者間の金融資産の譲渡金額が1億元超
③ 年間の関連者間の無形資産所有権の譲渡金額が1億元超
④ 年間のその他の関連者間取引の金額が合計4千万元超

現行の移転価格文書と同様の記載内容だが、取引価格設定に影響を与える要素やバリューチェーン分析、対外投資、関連者間持分譲渡等について、記載内容が大幅に増加

 

2021年3月3日(火)