国外転出時課税制度に関する諸整備
速報 平成28年度(2016年度)税制改正解説
NISAに関する国外転出時課税の取扱い
1. 改正の概要
- NISA口座を開設している者が国外転出によりNISA口座を廃止する場合において、その者が国外転出の日までに納税管理人の届出をせず、国外転出に係る準確定申告による国外転出時課税の適用があるときは、そのNISA口座内の上場株式等は、その国外転出の日に、国外転出の日の3月前の日の時価で譲渡し、かつ、再び取得したものとして譲渡所得等の非課税の措置を適用します。
すなわち、国外転出後の上場株式等の取得費(帳簿価額)は「国外転出の日の3月前の日の時価」に一本化されます。
2. 実務上の留意点
- 上記の改正については、ジュニアNISAも同様とする。
国外転出時課税により譲渡損失が生じた場合
1. 改正の概要
- 国外転出時課税制度の適用により生じた上場株式等(※)の譲渡損失についても、上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象に追加されます。
(※)上場株式等とは、上場株式、上場投資信託又は公募投資信託の受益権、特定公社債などをいう。
【譲渡損失の損益通算及び繰越控除の概要】
上場株式等の譲渡による損失の金額のうち、その年に控除しきれない金額については、翌年以後3年間にわたり、上場株式等に係る譲渡所得等の金額から繰越控除ができる。
2. 実務上の留意点
- 国外転出の後、5年(又は10年)以内に帰国等をして国外転出時課税の適用の取り消しを受けたことにより譲渡損失がなかったものとする場合には、修正申告が必要となり、本税及び延滞税等の納付義務が生ずる。
3. 今後の注目点
- 適用開始時期は、大綱段階においては明らかになっていない。
国外転出時課税制度に関する諸整備 ①
1. 改正の概要
- 相続又は遺贈により非居住者に有価証券等が移転した場合の国外転出時課税制度について、一定の事由に該当した場合における修正申告及び更正の請求に関する制度が手当されます。
【前提】
- 被相続人(相続開始日前10年内に5年超国内に住所等を有し、時価1億円以上の有価証券等を保有する者)
- 法定相続人は子供二人(うち一人は非居住者)
以下の場合にも修正申告及び更正の請求が認められます。
【その他の一定の事由】
① 強制認知の判決の確定等により相続人に異動が生じたこと。
② 遺留分減殺請求による返還等すべき金額が確定したこと。
③ 遺言書が発見され、又は遺贈の放棄があったこと。
④ 相続等による財産の権利の帰属に関する訴えについて判決があったこと。
⑤ 条件付遺贈について、条件が成就したこと。
〇 平成28年1月1日以後に生じた一定の事由より適用される。
2. 実務上の留意点
- 一定の事由が生じた日から4ヶ月以内に被相続人に係る準確定申告について修正申告又は更正の請求を行う。
- 修正申告又は更正の請求により被相続人に係る所得税額に変動が生じた場合には、相続税の修正申告又は更正の請求を行う
3. 今後の注目点
- 平成27年分の所得税申告に対する遡及適用が有るか否か。
国外転出時課税制度に関する諸整備 ②
1. 改正の概要
- 国外転出時課税制度の対象となる有価証券等の範囲から、一定の新株予約権等が除外されます。
【国外転出時課税制度の対象となる有価証券等の範囲】
(※1)新株予約権その他これに類する権利で株式を無償又は有利な価額により取得することができるもののうち、その行使による所得の全部又は一部が国内源泉所得となるもの
〇 平成28年分以後の所得税について適用される。
2. 実務上の留意点
- 権利行使により所得の全部又は一部が国内源泉所得となるものについては、日本において課税されるため税制適格・非適格を問わず、国外転出時課税制度の対象となる有価証券等の範囲から除外される。
国外転出時課税制度に関する諸整備 ③
1. 改正の概要
- 国外転出時課税制度の適用がある場合の納税猶予に係る期限の満了に伴う納期限が、国外転出の日又は贈与の日若しくは相続の開始の日から5年4ヶ月(又は、10年4ヶ月)を経過する日とされます。
〇 平成28年1月1日以後に納税猶予に係る期限の満了日が到来する場合について適用する。
2. 実務上の留意点
国外転出時等の課税の再計算をすることができる特例の適用を受けようとする場合には、納税猶予期限の満了日から4ケ月を経過する日までに更正の請求をすることとされているが、満了に伴う納期限については満了日と同日となっていたため、一旦、納税猶予の額を納付する必要が生じていた。このような納付の手間を解消するための改正となる。
国外転出時課税制度に関する諸整備 ④
1. 改正の概要
- 国外転出時課税制度が適用される者について、国外転出時課税制度に係る申告をしない場合には、時価により有価証券等を譲渡し、再取得したものとして有価証券等の取得価額を国外転出時の時価とみなす措置等が適用されないこととなります。
【確定申告義務なく、申告しなかった場合】
【確定申告義務があるが、申告しなかった場合】
〇 平成28年1月1日以後に帰国等をした場合について適用する。
2. 実務上の留意点
改正前においては確定申告の有無を問わずに取得価額の洗替えがされていたため、下記の問題が生じていた。
① 譲渡損失が生じているために確定申告せずに国外転出をした場合には、5年以内に帰国等をしても修正申告ができず、取得価額を国外転出前の価額に戻すことができない。
② 申告義務があるにもかかわらず無申告で国外転出した者は、課税されないまま取得価額がステップアップすることになる。改正により、このような問題に対応するための措置が講じられた。
国外転出時課税制度に関する諸整備 ⑤
1. 改正の概要
国外転出時課税の納税猶予の適用を受けている非居住者が、国外転出の後に有価証券等を取得している場合の取扱いについて明確化されました。
納税猶予の適用を受けている非居住者が国外転出の後に有価証券等を譲渡した場合には、次のように判定します。
(1) ①納税猶予の適用を受けている有価証券等と、②それ以外の有価証券等に区分し、②の有価証券等から先に譲渡したものとする。この場合の①の有価証券等には、贈与等により取得した有価証券等でその贈与者等が納税猶予の適用を受けているものを含むものとします。
(2) ①の有価証券等を譲渡したものとされる場合には、先に取得したもの(先に納税猶予の期限がくるもの)から先に譲渡したものとされます。
≪ 譲渡した場合の取扱 ≫
(Ⅰ) 納税猶予の適用を受けていない③の株式3,000株を譲渡
(Ⅱ) 納税猶予の適用を受けている①及び②の株式のうち先に取得した①の株式(2,000株)を譲渡
(Ⅲ) 非居住者は甲は①の株式のうち2,000株について納税猶予に係る期限が確定
〇 平成28年1月1日以後の譲渡等について適用する。
内容につきましては、「平成28年度税制改正大綱」に基づき、情報の提供を目的として、一般的な概要をまとめたものです。そのため、今後国会に提出される予定の法案等を確認する必要があり、当該法案等において本資料に記載した内容とは異なる内容が制定される場合もありますのでご留意ください。対策の立案・実行は専門家にもご相談のうえ、ご自身の責任において取り組んでいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
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