「攻めの経営」を促す役員給与等に係る税制の整備

速報 平成29年度(2017年度)税制改正解説

1. 改正の趣旨

  • 経営陣に中長期の企業価値創造を引き出すためのインセンティブを付与することができるよう、昨年に引き続き、業績に連動した報酬等の柔軟な活用を可能とする改正が行われます。

2. 改正の概要

  • 定期同額給与について、額面のみでなく税及び社会保険料を控除した手取額が同額の場合も対象に追加されます。
  • 利益連動給与の業績算定指標に「株価」、「売上」が追加され、当該事業年度の業績のみでなく、将来の業績を用いることができます。
  • 持株会社の場合、改正前は持株会社(非同族会社)の役員のみが利益連動給与の対象ですが、完全支配関係のある子会社の役員に対しても利益連動給与が支給できます。
  • 事前確定届出給与として、株式や新株予約権を交付することができるようになります(株価の変動はありますが、交付する株式数が確定していれば損金算入されるようになります)。
  • 利益に連動した退職給与のうち、有価証券報告書等に記載が無いなどの利益連動給与の要件を満たさないものは、損金の額に算入されないようになります。

〇 退職給与、譲渡制限付株式、新株予約権に係る部分は平成29年10月1日以後に支給又は交付に係る決議(決議が無い場合には支給又は交付)をする給与について適用される。
〇 その他の部分は平成29年4月1日以後に支給又は交付に係る決議(決議が無い場合には支給又は交付)をする給与について適用される。

3. 改正の内容

(1) 定期同額給与、事前確定届出給与、利益連動給与の改正

内容 改正前 改正案
定期同額給与 支給額(額面)が毎月同額 税および社会保険料の源泉徴収等後の金額(手取額)が毎月同額であるものを追加。
事前確定届出給与 所定の時期に「確定額」を支給する給与(届出必要) 所定の時期に「確定した数」の株式(※1)を交付する給与を追加(届出必要)。
所定の時期に「確定した数」の新株予約権(※1)を交付する給与を追加(一定の場合には届出不要)。
所定の時期に譲渡制限付株式を支給する給与(届出不要) 利益その他の指標を基礎として譲渡制限が解除される数が算定される譲渡制限付株式による給与を対象から除外。
利益連動給与 ① 算定指標
  • 利益※に関するもの
    ※税引前利益、ROE、ROA等
① 算定指標(追加)
  • 株価の状況を示す指標
  • 売上高の状況を示す指標※
    ※利益の状況を示す指標又は株価の状況を示す指標と同時使用する場合に限る
② 算定指標の対象期間
  • 当該事業年度
② 算定指標の対象期間(追加)
  • 当該事業年度後の事業年度
  • 将来の所定の時点又は期間
③ 限度額
  • 算定指標に基づく「確定額」
③ 限度額(追加)
  • 業績連動指標(※2)を基礎として算定される下記給与
    □ 市場価格のある株式を交付する給与で確定した数を限度とするもの
    □ 新株予約権を交付する給与で確定した数を限度とするもの
  • 業績連動指標(※2)を基礎として行使できる数が算定される新株予約権による給与
④ 対象法人
  • 非同族会社
④ 対象法人(追加)
  • 同族会社のうち、非同族法人との間に完全支配関係がある法人を追加
    ※その非同族法人において、報酬委員会における決定等の手続き及び有価証券報告書等での開示が必要

 

(2) 給与のその他の改正

内容 改正前 改正案
退職給与 損金不算入額
  • 不相当に高額な部分の金額
損金不算入額(追加)
  • 利益その他の指標(勤務期間及び既に支給した給与を除く)を基礎として算定されるもののうち、利益連動給与の損金算入要件を満たさないものは全額損金不算入
新株予約権による給与
  • 新株予約権による給与は損金算入
  • 新株予約権による給与で、事前確定届出給与又は利益連動給与の損金算入要件を満たさないものは損金不算入

 

(3) 譲渡制限付株式、新株予約権の帰属事業年度の特例の改正

内容 改正前 改正案
譲渡制限付株式、
新株予約権の帰属事業年度の特例
① 対象株式
  • 役務提供を受けた内国法人
  • その完全親法人の株式
① 対象株式(追加)
  • その他の法人の株式
② 損金算入時期
  • 譲渡制限が解除された日の属する事業年度
② 損金算入時期
  • 譲渡制限が解除されることが確定した日の属する事業年度
③ 非居住者に交付した場合
  • 給与等課税事由が生じないことから損金不算入
③ 非居住者に交付した場合
  • 損金算入※
    ※その非居住者が居住者であったとした場合に、給与所得等が生ずることが確定した日において役務の提供を受けたこととして、その事業年度の損金に算入

 

4. 実務上の留意点

  • 給与に比べて退職金は所得税の負担が小さく、利益連動の退職金の活用は企業にとっても役員にとってもメリットが大きい。
  • 欧米では手取り金額を保証する給与体系が多く、優秀な経営者を確保するため定期同額給与について手取額の基準を設ける。

5. 今後の注目点

  • 譲渡制限付株式について、自社又は完全親会社の株式以外を交付した場合に損金算入が認められるようになるが、その範囲の明確化
  • 利益連動給与の損金経理要件につき、どのような見直しが行われるか
  • 事前確定届出給与として新株予約権を付与する際に一定の場合には届出不要とされているが、その内容の明確化

 

 

 

内容につきましては、「平成29年度税制改正大綱」に基づき、情報の提供を目的として、一般的な概要をまとめたものです。そのため、今後国会に提出される予定の法案等を確認する必要があり、当該法案等において本資料に記載した内容とは異なる内容が制定される場合もありますのでご留意ください。対策の立案・実行は専門家にもご相談のうえ、ご自身の責任において取り組んでいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

 

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