適格分割の範囲等の見直し(スピンオフ)
速報 平成29年度(2017年度)税制改正解説
1. 改正の趣旨
- 企業の機動的な事業再編を促進するため、特定事業を切り出して独立会社とするスピンオフを行う際に、譲渡損益や配当についての課税を繰り延べます。
【対象となるスキーム】
① 新設分割型分割(金銭等交付はなし)
(改正前) 支配関係にない法人が新会社をスピンオフした場合には、適格要件(事業関連要件)を満たさず、分割法人及び株主において課税発生。
(改正後) 支配関係にない法人であっても、事業継続等の新たな要件を満たした場合には、課税の繰り延べ。
② 100%子法人株式の全部を分配する現物分配
(改正前) 完全支配関係のない株主に現物分配した場合には、適格現物分配に該当せず、分配法人及び株主において課税。
(改正後) 支配関係にない法人であっても、事業継続等の新たな要件を満たした場合には、課税の繰り延べ。
③ 単独新設分社型分割+上記②の現物分配
2. 実務上の留意点
- 改正前では、50%超の支配株主がいない法人での新設分割型分割は、共同事業要件(事業関連要件)に該当せず、非適格分割型分割として取り扱われた。
- 改正案では、50%超の支配株主がいない法人での新設分割型分割も事業継続要件等一定の要件を満たせば、適格分割型分割として課税が繰り延べられる。
- 改正前の適格現物分配の要件として、現物分配法人の株主は、現物分配法人との間に完全支配関係のある内国法人とされていた。
- 改正案では、100%子法人の全部を分配する現物分配のうち、新たに設けられた事業継続要件等一定の要件を満たす現物分配については、課税されない。
3. 今後の注目点
- 改正案の対象となる現物分配について、株主の具体的な計算の取り扱い
(譲渡を行ったものとみなす金額の計算方法、配当と取り扱われる金額の計算方法、配当と取り扱われた場合の他規定(受取配当等の益金不算入など)との関係など) - 改正案の対象となる現物分配について、現物分配法人の具体的な計算の取り扱い
(現物分配の際減少する純資産の内容(資本金等の額又は利益積立金額)、計算方法など)
参考
(1) 改正対象となった新設分割型分割の適格要件の比較
要件 | 改正前の適格要件(共同事業を行うための分割) | 新設分割型分割に係る改正案 (【対象となるスキーム】①について) |
次の要件を満たすものは、適格分割となる。ただし、分割法人の株主等の数が50人以上である場合には、株式継続保有要件を除く。 | 新設分割型分割で次の要件に該当するものは、適格分割の範囲に加える。 | |
対価 | 分割に伴って、分割承継法人株式又は分割承継親法人株式のいずれか一方の株式以外の資産が交付されないもの。 | 分割に伴って、分割法人の株主の持株数に応じて分割承継法人の株式のみが交付されるものに限る。 |
事業関連 | 分割法人の分割事業と分割承継法人の分割承継事業が相互に関連するものであること。 | – |
主要資産等引継 | 分割法人の分割事業に係る主要な資産及び負債が分割承継法人に移転すること。 | 分割法人の分割事業の主要な資産及び負債が分割承継法人に移転していること。 |
従業者引継 | 分割法人の分割事業の従業者のおおむね80%以上が分割承継法人の業務に従事することが見込まれていること。 | 分割法人の分割事業の従業者のおおむね80%以上が分割承継法人の業務に従事することが見込まれていること。 |
事業継続 | 分割法人の分割事業が分割承継法人において引き続き行われることが見込まれていること。 | 分割法人の分割事業が分割承継法人において引き続き行われることが見込まれていること。 |
経営参画 又は 事業規模 |
① 経営参画 分割法人の役員等のいずれかと分割承継法人の特定役員にいずれかがともに分割後に分割承継法人の特定役員となることが見込まれていること。 ② 事業規模要件 分割法人の分割事業と分割承継法人の分割承継事業のそれぞれの売上金額、従業者の数若しくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないこと。 |
① 経営参画 分割法人の役員又は重要な使用人が分割承継法人の特定役員となることが見込まれていること。 ②事業規模要件 なし |
株式継続 保有/支配 関係 |
分割法人の株主等で、分割により交付を受ける分割承継法人株式等の全部を継続して保有することが見込まれる者が有す分割法人の株式の数を合計した数が、分割法人の発行済株式等の総数の80%以上であること。 | 分割法人が分割前に他の者による支配関係がないものであり、分割承継法人が分割後に継続して他の者による支配関係がないことが見込まれていること。 |
(2) 改正対象となった現物分配の適格要件
要件 | 現物分配に係る改正案 (【対象となるスキーム】②について) |
次の要件に該当する100%子法人株式の全部に係る現物分配を適格組織再編成の一類型とする。 | |
対価 | 現物分配により現物分配法人の株主の持株数に応じて子法人株式のみが交付されるものに限る。 |
支配関係 | 現物分配法人が現物分配前に他の者による支配関係がないものであり、子法人が現物分配後に継続して他の者による支配関係がないことが見込まれていること。 |
従業者引継 | 子法人の従業者のおおむね80%以上がその業務に引き続き従事することが見込まれていること。 |
事業継続 | 子法人の主要な事業が引き続き行われることが見込まれていること。 |
経営参画 | 子法人の特定役員の全てがその現物分配に伴って退任をするものではないこと。 |
(3) 100%子法人株式の全部を分配する現物分配についての課税関係(【対象となるスキーム】②について)
改正前 | 改正案 | |
現物分配法人の株主 | 配当金として課税 | ① 有価証券の譲渡 (イ)原則的(時価譲渡) 旧株(現物分配法人の株式)のうちその交付を受けた子法人株式に対応する部分の譲渡を行ったものとみなす。 (ロ)特例(譲渡損益繰延) 旧株の譲渡損益の繰り延べ(所得税も同様)。 (※1)現物分配法人の株主の持株数に応じて子法人株式のみが交付される場合に限る。 ② 配当金 新たな適格要件(上記(2)現物分配に係る改正案)に該当しない場合には、一定の金額は配当課税。 |
現物分配法人 | 現物分配により移転した資産を時価により譲渡したものとして、譲渡損益課税。 | 新たな適格要件(上記(2)現物分配に係る改正案)に該当する場合には、下記取り扱い。
|
(※3)利益剰余金を減資とした現物分配を前提とする。
(4) 単独新設分社型分割に係る適格要件(関係継続要件)(【対象となるスキーム】③について)
改正前 | 改正案 |
分割後に分割法人と分割承継法人との間に当事者間の完全支配関係が継続することが見込まれていること。 | 単独新設分社型分割の後にその分割承継法人株式に係る現物分配(※2)が見込まれている場合には、左記完全支配関係の継続について、その現物分配の直前の時までの関係により判定する。 (※2)「(2)現物分配に係る改正案」に該当する現物分配に限る |
〇平成29年4月1日以後に開始する事業年度に適用される。
内容につきましては、「平成29年度税制改正大綱」に基づき、情報の提供を目的として、一般的な概要をまとめたものです。そのため、今後国会に提出される予定の法案等を確認する必要があり、当該法案等において本資料に記載した内容とは異なる内容が制定される場合もありますのでご留意ください。対策の立案・実行は専門家にもご相談のうえ、ご自身の責任において取り組んでいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
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