過大支払利子税制の見直し

速報 平成31年度(2019年度)税制改正解説

1. 改正の趣旨

過大支払利子税制とは、内国法人が過大な利子を支払い損金算入することによる租税回避を防止するため、支払利子のうち一定の額を超える部分を損金不算入とする制度である。改正前においては、グループ内の外国法人に対する所得移転を防止するために、グループ内の外国法人に対する支払利子のみが対象となっていた。
今年度改正では、2015年9月にとりまとめられたBEPS最終報告書を踏まえて、第三者に対する支払利子を活用し、グループ全体の税負担を引き下げる租税回避に対応するため、過大支払利子税制の内容が変更される。(過大支払利子を用いた租税回避の具体例は「5.改正の内容」参照)

2. 改正の概要と影響

① 対象となる支払利子等の範囲の拡大【課税対象の拡大】

  • 第三者を含む国外の者に対する支払利子等が対象となる。(改正前においては国外関連者(「5.改正の内容」参照)に対する支払利子のみが対象)
  • グループ内だけでなく第三者に対する支払利子も対象となるため対象範囲が拡大される。

② 調整所得金額の変更【課税対象の拡大】

  • 損金算入限度額は調整所得金額に一定の割合を乗じて計算するが、当該調整所得金額が、「課税所得+減価償却費+対象純支払利子等の額(「5.改正の内容」参照)+その他調整」へ変更となる。(改正前は受取配当等の益金不算入額等を加算)
  • 受取配当等の益金不算入額等が調整対象金額の対象から除外されるため、損金算入限度額は小さくなる。

③ 損金算入限度額の変更【課税対象の拡大】

  • ②の調整所得金額に乗じる一定の割合が20%(改正前は50%)となる。
  • 乗じる割合が小さくなるため、損金算入限度額は小さくなる。

④ 適用免除要件【適用免除要件の緩和】

  • 上記の課税対象の拡大を踏まえ、本制度の適用免除要件である以下2つの要件が緩和される(イとロのいずれか満たせば免除)
    イ. 対象純支払利子等の額が2,000万円(改正前は1,000万円)以下の場合、
    または
    ロ. 50%超の資本関係を有する全ての内国法人の対象純支払利子等の額の合計額がこれらの内国法人の調整所得金額の合計額の20%以下(改正前は国外関連者に対する支払利子等の額が法人の総支払利子等の額の50%以下)である場合

3. 適用時期

2020年4月1日以後に開始する事業年度

4. 実務上の留意点

① 損金算入限度額が縮小するため、国外からの借入金の調達による利子が損金算入限度額を超えないか確認する必要がある。
② 日本法人は国外の金融機関から借入れを行っていることは少ないと思われるため、新たに当該制度の対象となる日本法人は限定的と考えられる。

5. 改正の内容

国際01

改正点

No. 項目 改正前 改正案
対象利子の範囲 <国外関連者に対する純支払利子等の額>
純支払利子等の額=国外関連者(※)に対する支払利子等-対応する受取利子等
(※)国外関連者:内国法人と50%以上の資本関係のある外国法人等
第三者含む国外に対する純支払利子等の額>
対象純支払利子等の額=
対象外利子等(※)を除く支払利子等-対応する受取利子等
(※)対象外利子等:支払利子等の受領者側において日本の課税所得に含まれる支払利子等及び一定の公共法人に対する支払利子等
調整所得金額 課税所得+減価償却費+国外関連者に対する純支払利子等の額+受取配当等の益金不算入額+外国子会社配当等の益金不算入額+その他調整 課税所得+減価償却費+国外に対する対象純支払利子等の額+その他調整
※ 受取配当等の益金不算入額及び外国子会社配当等の益金不算入額を除外
損金算入限度額 調整所得金額×50% 調整所得金額×20%

 

(参考:過大支払利子を用いた租税回避の具体例)※下記事例において外国子会社合算税制の適用はないものとする

○ 事例1 軽課税国に所在するグループ内の外国法人に利子を支払うことにより日本国外に所得を移転する租税回避

国際01_02

○ 事例2 第三者に対する支払利子を活用し、グループ全体の税負担を引き下げる租税回避

国際01_03

 

 

 

 

内容につきましては、「平成31年度税制改正大綱」に基づき、情報の提供を目的として、一般的な概要をまとめたものです。そのため、今後国会に提出される予定の法案等を確認する必要があり、当該法案等において本資料に記載した内容とは異なる内容が制定される場合もありますのでご留意ください。対策の立案・実行は専門家にもご相談のうえ、ご自身の責任において取り組んでいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

 

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