移転価格税制の見直し
速報 平成31年度(2019年度)税制改正解説
1. 改正の概要
(1) 無形資産取引と移転価格税制
多国籍企業グループが特許権やノウハウなどの無形資産を経営資源に収益獲得する場合において、当該無形資産をグループ内の特定の法人が保有・管理しているときは、その法人に対しグループ間で使用料を支払う取引が生じる。
これを前提に、軽課税国所在の法人が無形資産を保有し、グループ企業の所得を使用料として軽課税国に移転させると、グループ全体の税負担を引き下げることが可能となる。ただし、当該無形資産が当該軽課税国以外の国から移転されたものである場合には、その無形資産の移転は独立企業間価格(適切な時価、詳細は「3.改正の概要」参照)で行われる必要があり、また、その使用料も独立企業間価格による必要がある。
これらの取引が独立企業間価格で行われず、所得が海外に移転している場合には、移転価格税制が適用される。
(2) 無形資産の評価に関する改正
大きな利益を生み出す独自性の高い無形資産は、比較対象取引(「3.改正の概要」参照)が把握できず、評価額や独立企業間価格の算定が困難な場合が多く、その評価額や独立企業間価格が適切かどうかを税務当局が検証することも困難である。
BEPSプロジェクトにおいて上記の問題への対応策として、①広範かつ明確な無形資産の定義の採用、②DCF法による価格算定、③所得相応性基準の導入が勧告され、これらの内容がOECD移転価格ガイドラインに反映された。
これに伴い、わが国においてもこれらの内容を反映するための税制改正が行われる。
2. 改正のイメージ
3. 改正の概要
※1 独立企業間価格:独立した第三者間であれば成立するであろう取引価格(いわゆる時価)
※2 比較対象取引:独立企業間価格算定の基礎となる、算定対象となる取引と十分に類似性している非関連者(支配関係等の特殊な関係がない者)間の取引
※3 DCF法:ディスカウンティッド・キャッシュ・フロー法。将来その資産から得られるであろうキャッシュ・フローを現在価値に割り引いて資産の時価を算定する方法
※4 特定無形資産:次の要件を全て満たす資産をいう。
①独自性があり重要な価値を有するものであること、②予測収益等の額を基礎として独立企業間価格を算定するものであること、③独立企業間価格の算定の基礎となる予測が不確実であると認められるものであること
※5 一定の書類:次に掲げる書類をいう。なお、下記③の書類を提出した場合、5年を経過する日後は、価格調整措置は適用しない。
①価格算定の基礎となる予測の詳細を記載した書類、②予測と結果が相違する原因が災害その他これに類するものであり取引時においてその発生が予測困難であったこと、又は取引時において当該事由の発生可能性を適切に勘案して独立企業間価格を算定していたことを証する書類、③特定無形資産の使用による非関連者からの収入が最初に生じた日を含む事業年度開始の日から5年を経過する日までの間の予測と実際の額の相違が20%を超えていないことを証する書類
4. 適用時期
2020年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税、及び2021年分以後の所得税から適用
5. 実務上の留意点
- 無形資産の範囲が明確になるため、無形資産の存在を再度検討する必要がある。
- 所得相応性基準による事後的な課税を受ける可能性があるため、事前に差異の要因となりうる事由や価格の適切な分析を行い適用免除を受ける準備をしておく必要がある。
6. 今後の注目点
- DCF法の具体的な算定方法については今後の情報を待つ必要がある。
- 所得相応基準の詳細については事務運営指針や通達等による整備が見込まれる。特定無形資産の定義や適用免除要 件について今後の情報を待つ必要がある。
内容につきましては、「平成31年度税制改正大綱」に基づき、情報の提供を目的として、一般的な概要をまとめたものです。そのため、今後国会に提出される予定の法案等を確認する必要があり、当該法案等において本資料に記載した内容とは異なる内容が制定される場合もありますのでご留意ください。対策の立案・実行は専門家にもご相談のうえ、ご自身の責任において取り組んでいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
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