連結納税制度の見直し
速報 令和2年度(2020年度)税制改正解説
1. 改正の概要
(1) 改正の趣旨・ポイント
<改正の趣旨>
連結納税制度は、企業グループ内の個々の法人の損益を通算するなど、グループ全体を一つの納税主体として課税する制度である。本制度は企業グループ内の損益通算のメリットがあるにも関わらず、税額計算の煩雑さ、税務調査後の修正・更正等に時間がかかりすぎるといったデメリットがあり、本制度を選択していない企業グループが多く存在する状況である。
そこで、連結納税制度に代えて、企業グループ内の各法人を納税単位として、各法人が個別に法人税額の計算及び申告を行いつつ、損益通算等の調整を行う簡素な仕組みとすることで事務負担の軽減を図りつつ、親法人の欠損金の利用制限等を行うことにより公平公正な税負担の措置を講じた、「グループ通算制度」へ移行する。
<改正のポイント>
グループ通算制度の主な特徴は以下の通り。
① 個別申告方式
- 企業グループの各法人が個別に法人税額等の計算及び申告を行う。
- 親法人及び各子法人には、通算グループ(※)内の他の法人の法人税について、連帯納付責任がある。
② 課税所得の計算及び法人税の計算
- 原則として単体法人での課税所得計算を行う。
- 外国税額控除や研究開発税制等については通算グループを一体として計算する。
- 欠損法人の欠損金額を他の所得法人の所得金額と損益通算することが可能。
③ 欠損金の繰越控除額
- 欠損金の繰越控除額の計算は、基本的に連結納税制度と同様。
- ただし、グループ通算制度の適用開始前の繰越欠損金について、親法人についても子法人と同様、自己の所得の範囲内でのみでしか控除できないこととなる。
④ 中小法人の判定
- 通算グループ内のいずれかの法人に大法人がある場合には、中小法人特例を適用できない。
(※)通算グループとは、法人と完全支配関係にあるすべての法人で構成されるグループをいう
(2) 所得金額及び法人税額の計算
改正前の計算方法は、企業グループ全体を一つの納税単位とした上で一体として計算した法人税額等をグループの親法人が申告納税を行うものであったが、改正後は各法人が個別に法人税額等の計算及び申告納税を行うこととなる。
① 改正前後の比較
内容 | 改正前(連結納税制度) | 改正後(グループ通算制度) | |
手続き等 | 納税主体 | 親法人が一体申告を行う | 企業グループ内の各法人が個別申告を行う |
連帯納付 | あり | あり | |
修正申告等 | 連結グループ内で再調整を行い、親法人にて修更正する。 | 原則、各法人にて修更正する。 | |
事業年度 | 親法人の事業年度 | 親法人の事業年度 | |
青色申告 | 連結申告法人は制度の対象外 | 各法人の青色申告承認が必要 | |
電子申告 | 任意 | 強制 | |
計算方法等 | 所得計算 | (所得調整) 連結所得を計算する上で、各法人所得の調整・集約及び連結グループ全体での調整・配分を行う。 (税額調整) 連結所得から算出された税額を各法人に配分・調整・集約及び連結グループ全体の調整を行う。 |
(所得調整) 欠損法人の当期欠損金額の合計額(所得法人の所得の金額の合計額を限度)を所得法人の所得の金額の比で配分し、所得法人において損金算入する。 (税額調整) 各法人の算出税額に通算グループ全体の調整を行う。 |
繰越欠損金 | 連結所得金額の50%相当額(連結親法人が中小法人等の一定の場合は100%)を限度として、連結所得から控除する。 | 通算グループ内の各法人の欠損金の繰越控除前の所得金額の50%相当額(グループ内法人が全て中小法人等であれば100%)を各法人の所得から控除する。 | |
個別帰属額の精算 | 債権債務が発生するが、寄附金の損金不算入・受贈益の益金不算入制度の導入により精算は任意 | 通算税効果額(※)を授受した場合には、各法人について益金の額及び損金の額には算入しない。 |
(※)「通算税効果額」とは、グループ通算制度を適用することにより減少する法人税及び地方法人税の額に相当する金額として内国法人間で授受される金額をいう。
② 各計算のフローイメージ図
(出典元:政府税制調査会「連結納税制度に関する専門家会合参考資料」を弊社で加工)
③ 損益通算・当期欠損金の通算
(イ)損益通算
グループ通算制度を適用している欠損法人の当期欠損金の合計額(所得法人の所得の合計額を限度)を所得法人の所得金額の比で配分し、所得法人において損金算入する。この損金算入された金額の合計額を欠損法人の欠損金額の比で配分し、欠損法人において益金算入する。
(ロ)繰越欠損金の通算
グループ通算制度の適用法人の繰越欠損金の繰越控除額の計算について、控除限度額は通算グループ内の各法人の繰越欠損金の繰越控除前の所得の金額の50%相当額(通算グループ内法人が全て中小法人等であれば100%)の合計額とし、控除方法は連結納税制度と同様とする。
(ハ)再計算時における通算グループ内の各法人への影響
グループ通算制度を適用している法人について、期限内申告書に記載された当期の所得や過年度の欠損金の金額に変更があった場合には、調整金額は当初申告のまま固定し、当該法人の所得や欠損金額の再計算を行う。したがって、他の法人の調整後の所得への影響はない。
・通算グループのうち1社が大法人であり、親会社に繰越欠損金がある場合
・通算グループ全社が中小法人に該当し、親会社に繰越欠損金がある場合
※欠損金の繰越期間に対する制限を潜脱するため又は通算グループ離脱法人に欠損金を帰属させるためにあえて誤った当初申告を行うなどの法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるときは、税務署長の判断により通算グループ全体で再計算を行う。
※通算グループ内の全ての法人について、期限内申告における所得の金額が零又は欠損金額がある等の要件に該当する場合には、調整金額を変更する。
※欠損金の繰越控除については、更生法人等の判定は各法人で行うため、更生法人等に該当した場合には、当該法人において欠損金の繰越控除を、所得を限度として行うことができる。また、通算グループ内のいずれかの法人が新設法人に該当しない場合にはその通算グループ内の全ての法人が新設法人に該当しないこととすることにより、欠損金の繰越控除の制限を行っている。
④ 税率
税率は、通算グループ内の各法人の適用税率(2019年4月1日以後開始事業年度の普通法人は23.2%)による。なお、通算グループ内の各法人が全て中小法人であれば、中小法人の特例が適用でき、軽減税率の適用対象所得については、年800万円を所得法人の所得金額の比で配分した金額とする。
⑤ 通算税効果相当額の授受
グループ通算制度の適用により減少する通算税効果額相当の金額を各法人間で授受する場合には、その授受する金額は、益金の額及び損金の額に算入しない。
(3) 投資簿価修正制度の見直し
① 内容
グループ通算制度への移行に伴い、利益・損失の二重計上を防止する観点から、投資簿価修正制度が次の制度に改組される。
(イ)通算グループ内の子法人の株式の評価損益及び通算グループ内の他の法人に対する譲渡損益を計上しない。
(ロ)通算グループからの離脱法人の株式の離脱直前の帳簿価額を離脱法人の簿価純資産価額に相当する金額とする。
(ハ)グループ通算制度の適用開始又は通算グループへの加入をする子法人で親法人との間に完全支配関係の継続が見込まれないものの株式について、株主において時価評価により評価損益を計上する。
(※)グループ通算制度の適用開始又は通算グループへの加入後損益通算をせずに2月以内に通算グループから離脱する法人については、上記(イ)から(ハ)までを適用しない。
②イメージ図
(4) 制度開始・加入時における時価評価課税および欠損金等の制限
個別申告方式とすることから、親法人の開始前欠損金についても、自己の所得の範囲内でのみ控除することとなる。
連結納税制度と組織再編税制との整合性がとれた制度を目指し、以下のように改正される。
親法人の制度開始前繰越欠損金の計算例
(※)下記計算は、改正前・改正後のいずれも通算グループ内のすべての法人が中小法人等である前提
・改正前(連結納税制度)
・改正後(グループ通算制度)
(5) グループ調整計算の見直し
次に掲げる個別制度については、親法人及び各法人が申告を行うことに鑑み個別計算を原則としつつ、企業経営の実態や事務負担、制度趣旨・目的、濫用可能性等を勘案し、それぞれ次のとおりとする。
(6) グループ通算制度における中小法人および適用除外事業者の判定
①中小法人(※1)の判定
次の制度における中小法人の判定について、通算グループ内のいずれかの法人が中小法人に該当しない場合には、通算グループ内の全ての法人が中小法人に該当しないこととする。
(イ)貸倒引当金の損金算入
(ロ)欠損金の繰越控除
(ハ)軽減税率
(ニ)特定同族会社の特別税率の不適用
(ホ)中小企業等向けの各租税特別措置
(※1)中小法人とは、期末資本金の額が1億円以下の普通法人(大法人(資本金の額が5億円超法人)に株式の100%を直接又は間接に所有されている場合における子法人等を除く。)をいう。
②適用除外事業者
通算グループ内のいずれかの法人の平均所得金額(前3事業年度の所得の金額の平均)が年15億円を超える場合には、通算グループ内の全ての法人が適用除外事業者に該当することとなる。
なお、適用除外事業者となった場合には、以下に掲げる中小企業者向け租税特別措置法が適用不可となる。
特例区分 | 特例項目 |
租税特別措置法 | (イ)法人税率の軽減(所得800万円以下の部分に対する税率:15%) (ロ)中小企業等の貸倒引当金の特例(法定繰入率の適用) (ハ)中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例 (ニ)研究開発税制(中小企業技術基盤強化税制の適用) (ホ)所得拡大促進税制(税額控除額の上限等) (ヘ)投資減税制度(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除等) |
2. 適用時期
グループ通算制度は、2022年(令和4年)4月1日以後に開始する事業年度から適用。
3. 実務上の留意点
- 現在、連結納税制度を適用している企業グループは、グループ通算制度の施行後は自動的にグループ通算制度に移行することとなるが、連結親法人が令和4年4月1日以後に開始する事業年度の開始の日の前日までに税務署長に届出書を提出することにより、グループ通算制度を適用しない単体納税法人となることができる
- グループ通算制度施行後に制度開始した場合は、親法人の制度開始前繰越欠損金は親法人の所得の範囲内でしか控除できなくなる。したがって、親法人に多額の欠損金がある法人グループ等は、連結納税制度(親法人の繰越欠損金の持ち込み制限なし)が廃止される前に適用を開始するかどうかの検討が必要。(グループ通算制度移行後に親法人の繰越欠損金が引き続き制限を受けずに控除できるかどうかは大綱からは明確に確認できないため今後の情報を確認する必要があるが、少なくとも2022年(令和4年)3月31日以前開始事業年度までは、現行の連結納税制度により控除可能と考えられる。)
- 子法人の時価評価課税・欠損金等の制限の対象範囲は、基本的に縮小される
4. 今後の注目点
- 親法人の制度開始前欠損金等についても、適格組織再編と同様の要件を満たさない場合の制限が見込まれる
- 共同事業性の判定について、企業グループ内のいずれか一の企業との間で判定することとなることが見込まれる
- 改正前の連結納税制度の適用を受けている連結親法人の最初連結親法人事業年度開始前に生じた欠損金額につき、グループ通算制度に移行後も通算グループ内の各法人の所得金額から控除できるかどうか
- グループ通算制度による、地方税の具体的な取扱いについて
- 交際費等の損金不算入額の計算(定額控除限度額)におけるグループ調整計算の取扱い
内容につきましては、「令和2年度税制改正大綱」に基づき、情報の提供を目的として、一般的な概要をまとめたものです。そのため、今後国会に提出される予定の法案等を確認する必要があり、当該法案等において本資料に記載した内容とは異なる内容が制定される場合もありますのでご留意ください。対策の立案・実行は専門家にもご相談のうえ、ご自身の責任において取り組んでいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
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