株式対価M&Aを促進するための措置の創設

速報 令和3年度(2021年度)税制改正解説

1. 改正の概要

(1) 改正内容

自社株式を対価として行われるM&Aについて、買収対象会社株主である法人及び個人が会社法の株式交付制度により、買収対象会社株式を譲渡し、買収会社の株式等の交付を受けた場合には、その譲渡した株式の譲渡損益に対する課税を繰り延べるものとする。
その際、自社株式に併せて金銭等を交付するいわゆる混合対価を一定程度認める(注1)とともに、期限の定めのない措置とする。(注2)
なお、買収会社(株式交付親会社)はその確定申告書に株式交付計画書及び株式交付に係る明細書(株式交付により交付した資産の数または価額の算定の根拠を明らかにする事項の記載が必要)を添付することとする。
(注1)混合対価につき、譲渡損益の繰延べは、対価として交付を受けた資産の価額のうち株式交付親会社の株式の価額が80%以上である場合に限るものとして、株式交付親会社の株式以外の資産の交付を受けた場合には株式交付親会社の株式の対応する部分の譲渡損益の計上を繰り延べる。
(注2)外国法人の本措置の適用については、その外国法人の恒久的施設(PE)において管理する株式に対応して株式交付親会社の株式交付を受けた部分(PE帰属所得)に限る。

(2) イメージ図【株式交付時⇒ 株式交付後】

図1-Aug-31-2023-06-51-38-0744-AM

(3) 今回改正の趣旨、手法比較について

企業の機動的な事業再構築を促し、両社協働による競争力の維持・強化を図る目的から、諸外国で多く活用されている株式対価M&Aにつき、買収対象会社株主の譲渡損益に対する課税の繰延べ措置を講ずるものであり、2019年(令和元年)12月4日成立(同12月11日公布)の「会社法の一部を改正する法律」(以下、改正会社法)に創設された『株式交付制度』に沿って税制が整備されている。
なお、類似制度として平成30年度税制改正により、産業競争力強化法に基づいた「特別事業再編を行う法人の株式を対価とする株式等の譲渡にかかる所得の計算の特例(いわゆる改正産競法株式対価M&A)」にも存在したが、今回改正を受け適用期限(2021年(令和3年)3月31日)をもって廃止することとなっている。現行の改正産競法株式対価M&A他、株式対価M&A(子会社化)で利用される手法との制度比較は下記の通りである。

 

【株式対価M&Aの手法比較】

要件 株式交付制度
(本件株式対価M&A)
改正産競法
株式対価M&A
(特別事業再編計画)
株式交換 現物出資
買収会社 日本法上の株式会社
(内国法人)
日本法上の株式会社
(内国法人)
日本法上の株式会社、合同会社
(内国法人)
日本法上の株式会社、持分会社
(内国法人)
買収対象会社 日本法上の株式会社
(内国法人)
※外国会社は不可
関係事業者
外国関係法人
日本法上の株式会社
※外国会社は不可
制限なし
対価の種類 自社株式、金銭等
※金銭等のみは不可
自社株式のみ 自社株式、金銭等 自社株式
部分的買収の可否 可能
(50%超の取得)※1
可能
(関係事業者又は外国関係法人に該当する取得のみ)
不可 可能
従前の子会社の追加買収 不可 不可 完全支配関係の
構築に用いることは可能
可能
対象会社株主レベルの課税 【対価の80%超が自社株式】
課税繰延べ※2
課税繰延べ

【金銭等不交付株式交換】
課税繰延べ
【上記以外】
課税

【適格現物出資】
課税繰延べ
【上記以外】
課税
【上記以外】
課税
認定手続き 特になし 特別事業再編計画の所管省庁の認定が必要 特になし 特になし

※1 2020年11月公布会社法施行規則等の一部を改正する省令(会社法施行規則第4条の2)による
※2 対象会社株主が外国法人の場合はPE帰属所得に限る

2. 適用時期

税務の取り扱いについて大綱上で適用時期の記載はないが、改正会社法の適用時期(2021年3月1日予定)と調整されるものと想定される。

3. 実務上の留意点

  • 株式交付の定義は「株式会社が他の株式会社を子会社とするために株式を交付すること」であるため、既存子会社の買い増しについては本制度は適用できない。
  • 子会社が親会社株式を用いて行う三角株式対価M&Aには利用できない。
  • 外国会社が買収会社となる、又は、外国会社が買収対象会社となることはできない。
  • 株式交付は株式交付子会社の株主における株式譲渡であることから、金融商品取引法について留意が必要である。

4. 今後の注目点

  • 適用時期
  • 株式交付における株式交付計画書及び株式交付にかかる明細書の添付と同様、株式交換及び株式移転についても明細書等の添付が必要とされるが、その明細書の作成者の範囲がどのようになるか(全ての株式交換及び株式移転に添付が必要とされるか)。
  • 明細書とともに添付する「株式交付により交付した資産の数又は価額の算定の根拠を明らかにする事項を記載した書類」の具体的内容。

【参考】会社法(株式交付)

株式交付とは… 株式会社が他の株式会社をその子会社とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付することをいう。(改正会社法第二条第三二号の二)

  • 株式交付計画書の記載内容について(改正会社法七七四の二)
  • 株式交付子会社の商号及び住所
  • 株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式数の下限
  • 株式交付子会社の株主に交付される株式交付親会社の株式数
  • 株式交付数の算定方法、株式交付親会社の資本金及び準備金の額に関する事項
  • 株式交付子会社の株主に交付される株式交付親会社の株式の割り当てに関する事項
  • 株式交付子会社の株主に金銭等(株式交付親会社の株式以外)を交付する場合にはその内容、算定方法
  • 株式交付子会社の株主に交付される金銭等の割り当てに関する事項
  • 株式交付子会社の株主から新株予約権等を譲り受ける場合には、その内容、算定方法
  • 上記新株予約権等の割り当てに関する事項
  • 株式交付子会社の株主の株式の譲り渡しの申込期日
  • 株式交付の効力発生日

 

内容につきましては、「令和3年度税制改正大綱」に基づき、情報の提供を目的として、一般的な概要をまとめたものです。そのため、今後国会に提出される予定の法案等を確認する必要があり、当該法案等において本資料に記載した内容とは異なる内容が制定される場合もありますのでご留意ください。対策の立案・実行は専門家にもご相談のうえ、ご自身の責任において取り組んでいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

 

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