研究開発税制の見直し
速報 令和3年度(2021年度)税制改正解説
1. 改正の概要
活発な研究開発を維持するとともに、企業のビジネスモデル変革を促していく観点から、次の見直しが行われる。
(1)総額型及び中小企業技術基盤強化税制の見直し
(2)オープンイノベーション型の対象範囲の追加等
(3)試験研究費の定義の見直し(自社利用ソフトウェアに係る試験研究費の追加)
(参考)研究開発税制の制度概要
研究開発投資を行った法人が、その事業年度において損金の額に算入する試験研究費の額がある場合に、その試験研究費の額の一定割合の金額を、その事業年度の法人税額から控除することを認める制度である。
税額控除額は次のいずれか少ない金額
① 試験研究費 × 一定割合 控除率
② 法人税額 × 一定割合 控除上限額
【用語の説明】
・増減試験研究費割合=増減試験研究費の額÷比較試験研究費
・増減試験研究費の額=試験研究費の額-比較試験研究費
・比較試験研究費=過去3年間の試験研究費の額の平均額
・試験研究費割合=試験研究費の額÷平均売上金額
・平均売上金額=当期と過去3年間の売上高の平均額
(1) 総額型及び中小企業技術基盤強化税制の見直し
① 控除率の見直し
研究開発投資の増加インセンティブを強化するため、控除率カーブが見直され、総額型の控除率の下限が2%(現行:6%)に引き下げられ、上限を14%(原則10%)とする特例の適用期限を2年延長する。
② 総額型及び中小企業技術基盤強化税制の控除上限引上げ
コロナ禍の厳しい経営環境であっても研究開発投資の増加を促すため、一定の要件のもと、総額型及び中小企業技術基盤強化税制の税額控除額の上限が5%上乗せされる。
【総額型】
改正前 | 改正後 | |
控除上限 |
法人税額×25% <上乗せ措置> 上乗せ措置適用後、最大、法人税額×35%(*1) |
法人税額×25% <上乗せ措置> <5%の上乗せ措置> 上乗せ措置適用後、最大、法人税額×40%(*2) |
(*1) 一定のベンチャー企業に対する特例を適用した場合は、最大40%
(*2) 一定のベンチャー企業に対する特例を適用した場合は、5%上乗せの適用はなく、最大40%
【中小企業技術基盤強化税制】
改正前 | 改正前 | |
控除上限 |
法人税額×25% <上乗せ措置> 上乗せ措置適用後、最大、法人税額×35% |
法人税額×25% <上乗せ措置> <5%の上乗せ措置> 上乗せ措置適用後、最大、法人税額×40% |
(2) オープンイノベーション型の対象範囲の追加等
① オープンイノベーション型の対象範囲と要件の追加
- 共同研究・委託研究の相手方に国立研究開発法人・国公立大学等の外部化法人が追加される。また、共同研究・委託研究の相手方である特別研究機関等に人文系の研究機関が追加される。
- 大学等との共同研究・委託研究及び特定中小企業者等への委託研究は要件が追加される。
【参考】「外部化法人」のイメージ
- 大学や国立研究開発法人が外部化法人を設立
- 特定の大学や国立研究開発法人が設立するパターン
- 複数の大学や国立研究開発法人が共同で設立するパターン など - 大学や国立研究開発法人の研究者は、研究案件に応じてクロスアポイントメント制度等で外部化法人に所属
- 外部化法人は共同研究を実施
- 既存の制約・慣行等から離れることにより研究開発のスピードアップを想定
② 事務手続き等の運用改善
共同研究の相手方が行う特別試験研究費の額であることの確認について、第三者が作成した報告書等によって確認することが可能であることを明確化する等の改善が行われる。
【参考】大学等との共同研究の場合の流れ(概要)
- 一定の内容を記載した共同研究契約書を締結し、共同研究を実施
- 特別試験研究費の額について専門家が監査を実施し、監査報告書を企業に提出
- 特別試験研究費の額について大学等が確認を実施し、確認報告書を企業に提出
- 企業は監査報告書と確認報告書を税務申告書に添付して税務申告を行う
(3) 試験研究費の定義の見直し(自社利用ソフトウェアに係る試験研究費の追加)
研究開発税制の対象となる試験研究費に「試験研究費のうち、(会計上)研究開発費として損金経理をした金額で(税務上)非試験研究用資産(*1)の取得価額に含まれるもの」が追加される。
この改正により、クラウド環境で提供するソフトウェアなど、自社利用ソフトウェアの製作に要した試験研究費が研究開発税制の適用対象となる。
(*1)非試験研究用資産とは、棚卸資産、固定資産及び繰延資産で、事業供用の時に試験研究の用に供さないものをいう。
(*2)SaaS(SoftwareasaService)
必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるようにしたソフトウェア(主にアプリケーションソフトウェア)もしくはその提供形態
出典:2020年10月一般社団法人電子情報技術産業協会「2021年度 税制改正要望書」
■ 一般的な自社利用ソフトウェア開発の流れと会計処理・税務処理のイメージ
2. 適用時期
(1)②総額型及び中小企業技術基盤強化税制の控除上限の引き上げ
- 令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する各事業年度
(2)オープンイノベーション型の対象範囲の追加等
- 不明(大綱記載なし)
(3)試験研究費の定義の見直し(自社利用ソフトウェアに係る試験研究費の追加)
- 不明(大綱記載なし)
3. 実務上の留意点
(1)総額型及び中小企業技術基盤強化税制の見直し
- 総額型の適用要件には、当期の所得金額が前期の所得金額を超える場合、雇用者給与、設備投資額の要件があるので、大企業は注意が必要である。
- 所得税も同様の改正とする。
(2)オープンイノベーション型の対象範囲の追加等
- 共同研究の相手方の確認手続きの煩雑さが解消されることから、協力体制を得られ易くなり、税額控除の適用を検討する企業が増加することが想定される。
(3)試験研究費の定義の見直し(自社利用ソフトウェアに係る試験研究費の追加)
- 会計上の「研究開発費」と税務上の「試験研究費」の定義は同じではないため、会計上研究開発費として費用処理したものすべてが研究開発税制の対象となるわけではない。
- 今年度改正で研究開発税制の対象に追加される自社利用ソフトウェアに係る試験研究費は、「試験研究費のうち、研究開発費として損金経理をした金額」が前提であるため、会計基準ではなく税務会計により経理処理している法人(ソフトウェア開発に係る費用をすべてソフトウェアとして資産計上している法人)は経理処理の変更が必要となる。
4. 今後の注目点
(2)オープンイノベーション型の対象範囲の追加等
- 特別試験研究機関等に追加される具体的な研究機関
- 外部化法人の具体的な範囲
- その他の運用改善の具体的な内容
(3)試験研究費の定義の見直し(自社利用ソフトウェアに係る試験研究費の追加)
- 新たに国税庁から通達、Q&Aが公表されるか?
そもそも、研究開発税制の対象となる「試験研究費」の定義・概念が曖昧なため、実務上は判断に迷う場面が少なくない。通達、Q&A等により「試験研究費」の定義・概念が明確になることが期待される。
(現在公表されている国税庁Q&A「Q&A研究開発減税・設備投資減税について(法人税)(平成15年10月)」)
(まとめ) 研究開発税制の全体像
内容につきましては、「令和3年度税制改正大綱」に基づき、情報の提供を目的として、一般的な概要をまとめたものです。そのため、今後国会に提出される予定の法案等を確認する必要があり、当該法案等において本資料に記載した内容とは異なる内容が制定される場合もありますのでご留意ください。対策の立案・実行は専門家にもご相談のうえ、ご自身の責任において取り組んでいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
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