電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度の見直し

速報 令和3年度(2021年度)税制改正解説

1. 改正前の制度

電子取引とは請求書等の交付など取引情報の授受を電磁的方式により行う取引をいう。電子取引を行うこと自体には、事前に税務当局の承認を得る必要はないが、電子取引を行った場合には、当該電子取引に係る電磁的記録を一定の要件を満たしたうえで、法定期間保存しなければらない。ただし、電子取引に係る電磁的記録を書面にて出力し、帳簿書類等の保存要件を満たしている場合には、電磁的記録の保存は必要ない。
一定の要件とは、下記の⑴のいずれかの措置を行い、⑵の保存要件をすべて充足することをいう。

(1) 措置

電磁的記録で交付又は受領した請求書等については、次のいずれかの措置を行う必要がある。
① タイムスタンプが付された後の授受(施規8①一号)※令和2年度改正で追加
② 授受後遅滞なくタイムスタンプを付す(施規8①二号)
③ データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム又は訂正削除ができないシステムを利用
(施規8①三号)※令和2年度改正で追加
④ 訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け(施規8①四号)

(2) 保存要件

□ システム関係書類等(システム概要書、システム仕様書、操作説明書、事務処理マニュアル等)を備え付けること
□ 保存場所に、電子計算機、プログラム、ディスプレイ、プリンタ及びこれらの操作マニュアルを備え付け、記録事項を画面・書面に整然とした形式及び明瞭な状態で速やかに出力できること
□ 取引年月日、勘定科目、取引金額その他のその帳簿の種類に応じた主要な記録項目により検索できること
□ 日付又は金額の範囲指定により検索できること
□ 二つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索できること

 

2. 改正の概要

(1) 措置に関する見直し

タイムスタンプ要件について、付与期間を2月とする。(改正前:遅滞なく)

(2) 保存要件の緩和

保存要件のうち、検索機能に関する要件に関しては、企業の規模に応じて下記の通り改正する。

検索要件 改正前 改正後
保存義務者 右記以外の保存義務者 ダウンロード要求に
応じる保存義務者(注1)
売上高1,000万円以下
の保存義務者(注2)
取引年月日、勘定科目、取引金額
その他のその帳簿の種類に応じた
主要な記録項目により検索できること
日付、金額、取引先に限定 不要
日付又は金額の範囲指定により検索できること 不要 不要
二つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索できること 不要 不要

(注1)国税庁等の当該職員の質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じる保存義務者をいう
(注2)売上高の判定期間は、個人事業者にあっては電子取引が行われた日の属する年の前々年の1月1日から12月31日までの期間をいい、法人にあっては電子取引が行われた日の属する事業年度の前々事業年度をいう。

(3) 担保措置の設定

電磁的記録の適正な保存を担保するための措置として、データ改ざん等に基づき修正申告等があった場合には、通常課される重加算税の額に当該申告漏れ等に係る本税の10%に相当する金額を重課する。

(4) 出力書面による代替措置の廃止

電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務者が行う当該電磁的記録の出力書面等の保存をもって当該電磁的記録に代えることができる措置を廃止する。

3. 適用時期

2022年(令和4年)1月1日以後に行う電子取引の取引情報について適用する。

4. 実務上の留意点

  • 改正前であれば、電子取引の取引情報に係る電磁的記録について、検索要件等を充足しない場合であっても、出力した書面を法定期間保存するという対応が可能であったが、2022年(令和4年)1月1日以後に行う電子取引の取引情報については、全て、検索要件等の要件を満たす形で保存しなければならない。
  • メール等で請求書等を受信することも電子取引に該当することから、保存要件を満たさないことによって、税務調査時に適正に書類が保存されていないと判断された場合には、青色申告の取消等の恐れもあるため注意が必要となる。
  • 税務調査における税務職員の質問検査権に基づくデータダウンロードの求めに関しては、検査の対象がどの範囲にまで及ぶのかについて確認が必要となる。

参考

電子帳簿保存法における国税関係帳簿書類の保存の類型(改正前)
電子帳簿等保存とスキャナ保存については、各税法に定める帳簿等保存義務の特例として一定の要件の下で承認に基づきデータによる保存を認めるものである。
電子取引に係るデータについては電子帳簿保存法において保存義務が整備されており、電子取引を行うこと自体については事前の承認は不要であるが、データの保存について一定の要件が規定されている。

図25

 

 

内容につきましては、「令和3年度税制改正大綱」に基づき、情報の提供を目的として、一般的な概要をまとめたものです。そのため、今後国会に提出される予定の法案等を確認する必要があり、当該法案等において本資料に記載した内容とは異なる内容が制定される場合もありますのでご留意ください。対策の立案・実行は専門家にもご相談のうえ、ご自身の責任において取り組んでいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

 

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