賃上げ税制:給与等の支給額が増加した場合の税額控除制度の改組
速報 令和4年度(2022年度)税制改正解説
1. 改正の概要
(1) 趣旨・目的
コロナ禍で低迷する日本経済の中長期的な成長を実現するために、「成長と分配の好循環」を背景にした積極的な賃上げを実現するとともに、株主だけではなく、従業員や取引先等の多様なステークホルダーへの還元を後押しする必要がある。そのための施策の一つとして、積極的な賃上げを行った企業等に対しての税制措置を抜本的に強化した現行制度の改組が行われる。
(2) 内容
適用要件が、「新規雇用者に対して支給する給与等の増加割合」から「継続雇用者に対して支給する給与等の増加割合」へ変更となり、税額控除の対象も新規雇用者から雇用者全体の給与等の増加額へと変更になる。また、最大の税額控除額も給与等支給増加額の30%へと拡充が行われる。
項目 | 改正前 | 改正後 | ||||
適用要件 | 新規雇用者給与等支給額≧ 新規雇用者比較給与等支給額×102% |
継続雇用者給与等支給額(※1)≧ 継続雇用者比較給与等支給額(※2)×103% |
||||
税額控除 | 上乗せなし | ・控除対象新規雇用者給与等支給額×15% | ・控除対象雇用者給与等支給増加額(※3)×15% | |||
上乗せ加算 |
・適用年度の教育訓練費の額≧ 前期の教育訓練費の額×120%の場合 |
5%加算 |
・適用年度の継続雇用者給与等支給額≧ 継続雇用者比較給与等支給額×104%の場合 |
10%加算 | ||
・適用年度の教育訓練費の額≧ 比較教育訓練費の額×120%の場合 |
5%加算 | |||||
最大控除率 | 20% | 30% | ||||
控除上限 | ・適用年度の法人税額の20%を上限 | 変更なし |
(※1)「継続雇用者給与等支給額」とは、継続雇用者(当期及び前期の全期間の各月分の給与等の支給がある雇用者で一定のものをいう。)に対する給与等の支給額をいう。
(※2)「継続雇用者比較給与等支給額」とは、前期の継続雇用者等支給額をいう。
(※3)「控除対象雇用者給与等支給増加額」とは、雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額をいう。
2. 適用時期
令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間に開始する事業年度について適用される。
3. 実務上の留意点
- 資本金の額等が10億円以上、かつ、常時使用する従業員の数が1,000人以上である場合には、給与等の引上げの方針、取引先との適切な関係の構築の方針その他の事項をインターネットを利用する方法により公表したことを経済産業大臣に届け出ている限り適用できる。
- 設立事業年度は本制度の適用対象外となる。
- 教育訓練費に係る税額控除の上乗せ措置の適用を受ける場合、改正前は教育訓練費の明細を記載した書類の確定申告書への添付が必要であったが、改正後は保存義務へと変更になる。
4. 今後の注目点
- 資本金の額等が10億円以上、かつ、常時使用する従業員の数が1,000人以上である法人が当該税制を適用する場合に必要となる経済産業大臣への届け出内容。
- 改正後の継続雇用者の定義に変更があるかの確認が必要。
内容につきましては、「令和4年度税制改正大綱」に基づき、情報の提供を目的として、一般的な概要をまとめたものです。そのため、今後国会に提出される予定の法案等を確認する必要があり、当該法案等において本資料に記載した内容とは異なる内容が制定される場合もありますのでご留意ください。対策の立案・実行は専門家にもご相談のうえ、ご自身の責任において取り組んでいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
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