中小企業経営強化税制の見直し・延長

速報 2025年度(令和7年度)税制改正解説

1. 改正のポイント

(1) 趣旨・背景

  • 中小企業は雇用の7割を抱えており、日本にとって重要な経済主体である。そのため健全な成長が地域経済の維持・発展のために不可欠である。
  • その中でも売上高100億円を超えるような中小企業は、輸出や海外展開等により域外需要を獲得するとともに、域内調達により新たな需要を創出する地域の中核となる存在である。そうした企業を育成することで、地域経済に好循環を生み出していく。
  • 中小企業経営強化税制について、売上高100億円超を目指す成長意欲の高い中小企業の設備投資に対して、更なる措置を講じるとともに、適用要件等の見直しを行ったうえで適用期限の延長を行う。

(2) 内容

① 生産性向上設備(A類型)について、経営力の向上の指標を見直す。
② 収益力強化設備(B類型)について、
・投資計画における年平均の投資利益率の見込みを5%以上から7%以上に引き上げる。
・売上高100億円超を目指す中小企業に対して、建物が税制の対象設備となる拡充措置を講じる。
③ デジタル化設備(C類型)は対象外となり、税制措置は2025(令和7)年3月31日で終了する。
④ 暗号資産マイニング業の用に供する設備は対象外とする。
⑤ 食品等事業者がワンストップで本制度を活用できる仕組みを構築する。
⑥ 上記(①~⑤)の措置を講じた上、適用期限を2年延長する。

 

2. 改正の概要

中小企業経営強化税制について、一部を見直した上、デジタル化設備(C類型)を除き適用期限を2年延長する。

  生産性向上設備/A類型 収益力強化設備/B類型(従来) 経営資源集約化に資する設備/D類型
対象企業 青色申告書を提出する中小企業者等※(資本金額1億円以下の法人又は協同組合等)
対象事業
(指定事業)
・主に製造業・建設業・小売業・卸売業・サービス業等が対象
・電気業、熱供給業、水道業、娯楽業(映画業を除く)、鉄道業、航空運輸業、銀行業等の事業は対象外
適用要件① 特定経営力向上設備等の取得等をし、指定事業の用に供すること
適用要件② ① 経営強化法の認定
② 生産効率等の指標が、旧モデルと比較して平均1年あたり1%以上改善している設備
【改正後】生産効率等の指標は単位時間当たり生産量、歩留まり率又は投入コスト削減率のいずれかによる
① 経営強化法の認定
②【改正前】投資利益率が5%以上の投資計画に係る設備
【改正後】投資利益率が7%以上の投資計画に係る設備
① 経営強化法の認定
② 修正ROAまたは有形固定資産回転率が一定割合以上の投資計画に係る設備
対象設備 • 機械及び装置(160万円以上)
• 測定工具、検査工具(30万円以上)
• 器具備品(30万円以上)
• 建物附属設備(60万円以上)
• ソフトウェア(70万円以上)
• 機械及び装置(160万円以上)
• 工具(30万円以上)
• 器具備品(30万円以上)
• 建物附属設備(60万円以上)
• ソフトウェア(70万円以上)
• 機械及び装置(160万円以上)
• 工具(30万円以上)
• 器具備品(30万円以上)
• 建物附属設備(60万円以上)
• ソフトウェア(70万円以上)
適用対象範囲 生産等設備を構成するものであること、国内への投資であること、中古資産・貸付資産でないこと、等
事務用器具備品、本店、寄宿舎等に係る建物附属設備等、コインランドリー業又は暗号資産マイニング業(主要な事業であるものを除く。)の用に供する資産でその管理のおおむね全部を他の者に委託するものは対象外。
【改正後】暗号資産マイニング業の用に供する設備は対象外
確認者 工業会等 経済産業局 経済産業局
税制措置 即時償却又は10%税額控除(資本金3,000万円超の中小企業者等の場合、即時償却又は税額控除7%)
適用期間 【改正前】2025(令和7)年3月31日まで
【改正後】2027(令和9)年3月31日まで:2年延長

※同一の大規模法人が発行済株式等の2分の1以上を所有している会社、2以上の大規模法人が発行済株式等の3分の2以上を所有している会社、適用事業年度前3年間の平均所得が15億円を超える法人を除く。(【改正後】みなし大企業の判定から、一定の法人が農地所有適格法人の発行済株式等の2分の1超を保有する場合のその株式は除外する

 

中小企業経営強化税制について、売上高100億円超を目指す中小企業に係る拡充措置を創設する。

  収益力強化設備/B類型(拡充措置)
対象企業 青色申告書を提出する中小企業者等※(資本金額1億円以下の法人又は協同組合等)
対象事業
(指定事業)
・主に製造業・建設業・小売業・卸売業・サービス業等が対象
・電気業、熱供給業、水道業、娯楽業(映画業を除く)、鉄道業、航空運輸業、銀行業等の事業は対象外
適用要件① 特定経営力向上設備等の取得等をし、指定事業用に供すること
適用要件② ① 経営強化法の認定
② 投資利益率が7%以上かつ経済産業大臣が定める要件(経営規模拡大要件)に適合し確認を受けた投資計画に係る設備
③ 本制度の対象となる金額の上限は60億円
経営規模拡大要件 ① 売上向上のための施策及び設備投資時期を示した行程表(ロードマップ)を作成していること。
② 基準事業年度の売上高が10億円超90億円未満であること。
(注)上記の「基準事業年度」とは、経営力向上計画の認定を申請する事業年度の直前の事業年度をいう。
③ 売上高100億円超を目指すための事業基盤、財務基盤及び組織基盤が整っていること。
④ 売上高100億円超及び年平均10%以上の売上高成長率を目指す投資計画であること。
⑤ 次の要件を満たす設備投資を行う投資計画であること。
・導入予定の設備が、売上高の増加に貢献するものであること。
・経営力向上計画の認定を受けた日から2年以内に導入予定の設備の取得価額の合計額が、1億円と基準事業年度の売上高の5%相当額とのいずれか高い金額以上であること。
・生産性の向上に資する設備の導入に伴い建物及びその附属設備の新設又は増設をするものであること。
⑥ 投資計画の計画期間中において、給与等の支給額を増加させるものであること
⑦ 上記のほか、売上高100億円超を目指すために必要とされる要件を満たすこと。
対象設備 • 機械及び装置(160万円以上)
• 工具(30万円以上)
• 器具備品(30万円以上)
• 建物及び附属設備(合計額1,000万円以上)
• ソフトウェア(70万円以上)
適用対象範囲 生産等設備を構成するものであること、国内への投資であること、中古資産・貸付資産でないこと、等
事務用器具備品、本店、寄宿舎等に係る建物附属設備等、コインランドリー業の用に供する資産でその管理のおおむね全部を他の者に委託するもの、暗号資産マイニング業の用に供する資産、医療保健業を行う事業者が取得等をするもの、発電の用に供する設備で主として電気の販売を行うためものは対象外。
確認者 経済産業局
税制措置①

【建物及び附属設備】
・特別償却給与増加割合2.5%以上:15%、給与増加割合5%以上:25%
又は
・税額控除給与増加割合2.5%以上:1%、給与増加割合5%以上:2%

(注)給与増加割合が2.5%未満である場合、特別償却及び税額控除は適用できない

※給与増加割合
算式:(供用年度の雇用者給与等支給額ー供用年度の前事業年度の雇用者給与等支給額(A))/(A)
※雇用者給与等支給額
法人の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内の事業所に勤務する雇用者に対する給与等の支給額

【機械及び装置、工具、器具備品、ソフトウェア
・特別償却即時償却
又は
・税額控除10%(資本金3,000万円超の中小企業者等の場合7%)

税制措置② 当該計画の確認を受けた投資計画の計画期間中は、中小企業投資促進税制及び中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の適用を受けることができない
適用期間 2027(令和9)年3月31日まで

※同一の大規模法人が発行済株式等の2分の1以上を所有している会社、2以上の大規模法人が発行済株式等の3分の2以上を所有している会社、適用事業年度前3年間の平均所得が15億円を超える法人を除く。(【改正後】みなし大企業の判定から、一定の法人が農地所有適格法人の発行済株式等の2分の1超を保有する場合のその株式は除外する

 

3. 実務上の留意点

  • 従来の制度については、生産性向上設備の経営力の向上の指標の見直し、収益力強化設備の投資利益率の引き上げ、デジタル化設備が廃止されたことに伴い従来より対象となる設備の範囲は縮小が見込まれる。
  • 売上高100億円超を目指す中小企業に係る拡充措置は、以下の点に留意しつつ適用を検討する必要がある。
    ① 経営規模拡大要件のうち売上基準は10億円超90億円未満と幅広いが、売上高100億円超及び年平均10%以上の売上高成長率を目指す投資計画である必要がある。
    ② 計画期間中は「中小企業投資促進税制・中小企業等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」の適用ができないデメリットがある。拡充措置の適用に際しては十分な検討が必要である。
    ③ 供用年度の給与増加割合が2.5%未満の場合又は投資計画に記載された供用年度の給与増加割合が2.5%未満の場合には、建物及びその附属設備については、特別償却及び税額控除は適用できない。適用に際しては、給与の支給予定額の確認が必要である。

4. 今後の注目点

  • 今年度改正は、中小企業等経営強化法の改正が前提であるため、同法の改正動向に注視する必要がある。
  • 拡充措置の具体的な手続き及び経営規模拡大要件の詳細な内容について注視する必要がある。
  • 従来の制度と拡充措置が併用できるか否か、例えば、建物については拡充措置を適用し、建物附属設備については従来の制度が適用できるかどうかについて注視する必要がある。
  • 食品等事業者がワンストップで本制度を活用できる仕組みについては、「食品等の流通の合理化及び取引の適正化に関する法律」の改正が前提であるため、同法の改正動向に注視する必要がある。

 

 

内容につきましては、「令和7年度税制改正大綱」に基づき、情報の提供を目的として、一般的な概要をまとめたものです。そのため、今後国会に提出される予定の法案等を確認する必要があり、当該法案等において本資料に記載した内容とは異なる内容が制定される場合もありますのでご留意ください。対策の立案・実行は専門家にもご相談のうえ、ご自身の責任において取り組んでいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

 

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