税のトピックス

2025年1月10日

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退職金に関する税務論点

退職金に関する税務論点

1. はじめに

受給側である個人において、一般的に退職金は、過去長期間にわたる勤労の対価の後払いの性質をもち、また退職後の生活の原資となるものであり、他の所得に比べ担税力が弱いものとされています。したがって、退職所得の計算においては、税負担を軽減する仕組みとなっています。

 

2課税上の取扱い

(1) 退職所得

退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与およびこれらの性質を有する給与等(以下、「退職手当等」)とされています。また、社会保険制度などにより退職に基因して支給される一時金、確定拠出年金法に規定する企業型年金規約または個人型年金規約に基づいて老齢給付金として支給される一時金なども退職所得とみなされます。なお、退職所得は、原則として他の所得と分離して所得税額を計算します。

(2) 退職所得の計算方法

計算式

退職所得の金額=(退職手当等の収入金額 - 退職所得控除額)×1/2

勤続年数

退職所得控除額

20年以下

40万円×勤続年数(最低80万円)

20年超

800万円+70万円×(勤続年数-20年)

(注1) 勤続年数は1年未満の期間は切り上げます。
(注2 確定給付企業年金規約に基づいて支給される退職一時金などで、従業員自身が負担した保険料または掛金がある場合には、その支給額から従業員が負担した保険料または掛金の金額を差し引いた残額を退職所得の収入金額とします。

(3) 2分の1計算の適用がない場合

退職所得の社会的・政策的見地から、前述の2分の1計算が講じられています。

しかし、短期間のみ在職することが当初から予定されている役員等が、給与の受取りを繰り延べて高額な退職金を受取ることや、外部からヘッドハンティング等する際、意図的に、その短期間勤務予定の従業員の給与を下げ、代わりに高額な退職金を支払い、税負担を軽減するなど意図的に税負担を軽減する事例が指摘されていたことから、下記の取扱いがなされています。

① 退職手当等が「特定役員退職手当等」に該当する場合
特定役員退職手当等(役員等勤続年数が5年以下である人が支払を受ける退職手当等のうち、その役員等勤続年数に対応する退職手当等として支払を受けるもの)については、退職金の額から退職所得控除額を差し引いた額が退職所得の金額になります(2分の1計算の適用はありません。)。

② 退職手当等が「短期退職手当等」に該当する場合
短期退職手当等(勤続年数5年以下で、かつ、役員等以外の者の退職手当等)について、 短期退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額のうち、300万円を超える部分について2分の1計算の適用はありません。

 (4) 退職所得控除の調整規定

その年の前年以前4年内(その年に確定拠出年金に係る退職一時金の支払を受ける場合には19年内)に退職手当等の支払を受けたことがある場合において、その年に支払を受ける退職手当等についての勤続期間の一部が、その年の前年以前4年内(又は19年内)に支払を受けた前の退職手当等についての勤続期間と重複している場合には、退職所得控除の計算上、勤続年数の重複を排除して計算を行います。

 

今回の受給(A

以前の受給(B

退職所得控除での調整計算

① 退職手当等(確定拠出年金に係る退職一時金を除く

退職手当等(確定拠出年金に係る退職一時金を含む

Aの受給年の前年以前4年内にBを受給した場合には、勤続年数の重複を排除

② 確定拠出年金に係る退職一時金

退職手当等(確定拠出年金に係る退職一時金を含む

Aの受給年の前年以前19年内にBを受給した場合には、勤続年数の重複を排除

上記表①に関しては、令和7年度税制改正大綱において、課税の公平性の観点から、先に確定拠出年金一時金を受給した場合の重複排除に係る調整期間を4年から9年に延長する一部見直し案の記載がされています。

 

3. おわりに

退職金は個人の生活設計にも密接に関係するものですが、近年においては退職所得課税について、勤続年数が20年を超えると1年あたりの退職所得控除額が増加する仕組みが転職の増加等の働き方の多様化に対応していないという指摘もあります。今後の税制改正の動向も注目されています。

 

 

執筆:深地 謙輔 fukajik@yamada-partners.jp

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