国境を越えた役務の提供に対する消費税の課税の見直し
速報 平成27年度(2015年度)税制改正解説
1. 改正の概要
<改正前>
- 消費税は、日本国内の取引についてのみ課税されますが、国外事業者が行うインターネット等を通じた電子書籍、音楽、広告の配信等(「電気通信役務の提供」)については「国外取引」と捉え、消費税が課されていません。これに対し、国内の事業者が行う同様の役務提供については、「国内取引」として消費税が課されており、国内外の事業者間で競争条件に歪みが生じています。
<改正案>
- この問題に対し、国内外の競争環境の公平性、中立性を確保する観点から、国外事業者から国内の者へのインターネット等を通じた役務提供を「国内取引」と位置付けて消費税が課されることになります。
- これに伴い、新たに以下2つの課税方式が導入されることになります。
- 国外事業者申告納税方式
国外事業者が行う電気通信役務の提供のうち「消費者向けのもの(※1)」について、役務提供を行う国外事業者が納税義務者として申告納税を行う方法 - リバースチャージ方式
国外事業者が行う電気通信役務の提供のうち「事業者向けのもの(※2)」について、役務提供を受ける国内事業者に納税義務を転換して申告納税を行う方法
(※1) 国外事業者が行う電気通信役務の提供のうち、下記※2以外のものをいいます。
(※2) 国外事業者が行う電気通信役務の提供のうち、役務の性質又は契約条件等により、当該役務提供を受ける者が事業者であることが明らかなものをいいます。
〇 平成27年10月1日以後に国内において事業者が行う取引について適用される。
【1. 課税方式の考え方】
(前提)税抜対価100 消費税8の役務提供の場合
■ 国外事業者申告納税方式
役務提供を行う国外事業者が消費税を含む「税込価格」で対価を受領し、当該国外事業者が日本国内の税務署に消費税を申告納税
■ リバースチャージ方式
役務提供を行う国外事業者は消費税を含まない「税抜価格」で対価を受領し、役務提供を受ける国内事業者がその対価に係る消費税相当を申告納税
【2. 各課税方式の留意点】
■ 国外事業者申告納税方式
(※1)国内事業者の仕入税額控除について
国内事業者が国外事業者に支払う対価に係る消費税は、当分の間、仕入税額控除の対象とならない。ただし、国外事業者が「登録国外事業者(※2)」に該当する場合には、当該登録国外事業者の登録番号等が記載された請求書等の保存等を要件として、その課税仕入れに係る消費税につき仕入税額控除制度の適用が認められる。
(※2)登録国外事業者制度について
国外事業者(事業者免税点制度の適用を受けない者に限る。)で、国税庁長官に申請書を提出し、登録を受けた事業者をいう。なお、当該事業者は、国税庁により、名称、本店所在地及び登録番号等がインターネットにおいて公表される。平成27年7月1日以後に申請が可能となる。
(※3)国外事業者の納税義務について
基準期間における課税売上高が1,000万円以下の国外事業者については、納税義務が免除される。ただし、登録国外事業者の登録日の属する課税期間の翌課税期間以後は、納税義務は免除されない。
■ リバースチャージ方式
(※4)国内事業者の納税義務について
事業者向け電気通信役務の提供を受ける国内事業者が免税事業者である場合には、リバースチャージ方式による納税義務も免除される。また、納税義務判定上の基準期間の課税売上高には、リバースチャージ方式に係る取引の支払対価の額は含まれない。
(※5)国外事業者の国内事業者に対する表示義務
国内で事業者向け電気通信役務の提供を行う国外事業者は、あらかじめ、当該役務提供に係る国内事業者が消費税の納税義務者となる旨を表示しなければならない。
(※6)リバースチャージ方式に係る取引の経過措置
国内事業者の課税売上割合が95%以上である場合には、当分の間、当該役務提供取引はなかったものとされる。つまり、当該取引に係る消費税は納税額に含めず、かつ、仕入税額控除の対象ともならない。
【3. 国外事業者による芸能・スポーツ等の役務の提供に係る消費税の課税方式】
国外事業者が国内において行う芸能・スポーツ等の役務の提供に係る消費税の課税方式についても、リバースチャージ方式が導入される。つまり、その取引に係る消費税の納税義務が、「役務の提供を行う事業者」から「役務の提供を受ける事業者」に転換される。
当該改正は、平成28年4月1日以後に行われる役務の提供について適用される。
2. 実務上の留意点
- 「国外事業者申告納税方式」と「リバースチャージ方式」のいずれの課税方式が採用されるかは、その電気通信役務の提供が「消費者向けのもの」か、「事業者向けのもの」か、に応じて判断する。
- 国外事業者による芸能・スポーツ等の役務提供については、「リバースチャージ方式」が採用される。
3. 今後の注目点
- 国外事業者が行う電気通信役務の提供のうち、リバースチャージ方式の対象となる「役務の提供を受ける者が事業者であることが明らかなもの」の判断は具体的にどのような基準により行うのか。
- リバースチャージ方式における仕入税額控除の計算方法はどのように行うのか。
- リバースチャージ方式が採用される取引を行う国外事業者は、国内事業者に対して消費税の納税義務者となる旨を表示しなければならないが、その表示方法はどのように行うのか。
- 国外事業者が国内事業者に対して消費税の納税義務者となる旨の表示義務を怠った場合に、罰則規定はあるのか。
- リバースチャージ方式が採用される取引について国外事業者から消費税の納税義務者となる旨の表示がなかった場合においても、国内事業者は自ら納税義務の判断を行わなければならないか(表示がなく申告納税を行わなかった場合においても、修正申告等において、過少申告加算税等の対象となるのか)。
内容につきましては、「平成27年度税制改正大綱」に基づき、情報の提供を目的として、一般的な概要をまとめたものです。そのため、今後国会に提出される予定の法案等を確認する必要があり、当該法案等において本資料に記載した内容とは異なる内容が制定される場合もありますのでご留意ください。対策の立案・実行は専門家にもご相談のうえ、ご自身の責任において取り組んでいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
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