事業承継税制の特例の創設等

速報 平成30年度(2018年度)税制改正解説

1. 改正の概要

事業承継税制は10年間の特例措置として抜本的に拡充される。

特例後継者(仮称)が、特例認定承継会社(仮称)の代表権を有していた者から、贈与又は相続若しくは遺贈により当該特例認定承継会社の非上場株式を取得した場合には、その取得した全ての非上場株式に係る課税価格に対応する贈与税又は相続税の全額について、その特例後継者の死亡の日等までその納税を猶予する。

 

<改正のポイント>

  • 納税猶予の対象株式数の制限がなくなる。
  • 相続においても対象株式に係る相続税の全額が猶予される。
  • 雇用確保要件が大幅に緩和される。
  • 適用対象者の拡大により、承継パターンが多様化する。
  • 一定の要件を満たす納税猶予対象株式の譲渡、合併、解散等については納付額の減免措置が講じられる。
  • 特例後継者が贈与者の推定相続人以外の者であっても相続時精算課税制度の適用が可能となる。

 

(1) 改正の内容

内容 現行制度 特例制度
納税猶予対象株式 発行済議決権株式総数の3分の2に達するまでの株式 取得した全ての株式
納税猶予税額 贈与の場合:納税猶予対象株式に係る贈与税の全額
相続の場合:納税猶予対象株式に係る相続税の80%
贈与の場合:納税猶予対象株式に係る贈与税の全額
相続の場合:納税猶予対象株式に係る相続税の全額
雇用確保要件 経営承継期間内の一定の基準日における雇用の平均が「贈与時又は相続時の雇用の8割」を下回った場合には納税猶予は打ち切りとなる 経営承継期間内の一定の基準日における雇用の平均が「贈与時又は相続時の雇用の8割」を下回ったとしても当該要件を満たせない理由を記載した書類を都道府県に提出すれば納税猶予は継続される
先代経営者の要件 代表権を有する又は有していた先代経営者1人から、株式を承継する場合のみ適用対象 複数人(代表者以外の者を含む)からの特例後継者への承継も適用対象
後継者の要件 代表権を有している又は代表権を有する見込みである、後継者1人への承継のみ適用対象 代表権を有する複数人(最大3名)への承継も適用対象
猶予期限の確定事由
(譲渡・合併・解散等)に該当した場合の納付金額
株式の贈与時・相続時の相続税評価額を基に計算した納付税額 一定の要件を満たす場合には、株式の譲渡若しくは合併の対価の額又は解散の時における相続税評価額を基に、納付金額を再計算し、当該納付金額が当初の納税猶予税額を下回る場合、差額は免除
相続時精算課税制度の適用対象者 贈与者は贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母又は祖父母、受贈者は贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の者のうち、贈与者の直系卑属等 贈与者(その年の1月1日において60歳以上)の推定相続人以外の者(同日において20歳以上)である特例後継者も適用対象

 

【特例制度の適用要件】

① 特例承継計画を提出した特例認定承継会社の代表権を有していた者から、
② 当該特例承継計画に記載された特例後継者が、贈与又は相続若しくは遺贈により当該特例認定承継会社の非上場株式を取得した場合に適用される。

< 定義 >

特例承継計画
( 仮 称 )
認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けた特例認定承継会社が作成した計画であって、当該特例認定承継会社の後継者、承継時までの経営見通し等が記載されたものをいう。
特例認定承継会社
( 仮 称 )
平成30年4月1日から平成35年3月31日までの間に特例承継計画を都道府県に提出した会社であって、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律第12条第1項の認定を受けたものをいう。
特例後継者
( 仮 称 )

特例認定承継会社の特例承継計画に記載された当該特例認定承継会社の代表権を有する後継者(※1)であって、当該同族関係者のうち、当該特例認定承継会社の議決権を最も多く有する者(※2)をいう。

(※1) 同族関係者と合わせて当該特例認定承継会社の総議決権数の過半数を有する者に限る。
(※2) 当該特例承継計画に記載された当該後継者が2名又は3名以上の場合には、当該議決権数において、それぞれ上位2名又は3名の者(当該総議決権数の10%以上を有する者に限る。)

 

(2) 承継パターンの拡大

① 事業承継税制の適用対象者の拡大

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② 相続時精算課税制度の適用対象者の拡大

特例後継者が贈与者の推定相続人以外の者(その年の1月1日において20歳以上である者に限る)であり、かつ、その贈与者が同日において60歳以上の者である場合には、相続時精算課税の適用を受けることができる。

 

(3) 譲渡、合併、解散時等の納税猶予税額の減免

「経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合」において、特例承継期間(5年)経過後に
(a)特例認定承継会社の非上場株式の譲渡をするとき
(b)特例認定承継会社が合併により消滅するとき
(c)特例認定承継会社が解散するとき
等には、次のとおり納税猶予税額を免除する。

「経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合」とは、次のいずれかに該当する場合をいう(解散した場合は5を除く)。
譲渡、合併、解散等(以下、「譲渡等」という。)の時期によっては、特例の要件で判定することもできる。

  指標 原則 判定時期の特例
譲渡等が直前の事業年度終了の日から6月以内(4については1年以内)に行われた場合
1 利益金額 直前の事業年度終了の日以前3年間のうち2年以上、特例認定承継会社が赤字 直前の事業年度終了の日の1年前の日以前3年間のうち2年以上、特例認定承継会社が赤字
2 売上高 直前の事業年度終了の日以前3年間のうち2年以上、特例認定承継会社の売上高が、その年の前年の売上高に比して減少 直前の事業年度終了の日の1年前の日以前3年間のうち2年以上、特例認定承継会社の売上高が、その年の前年の売上高に比して減少
3 有利子負債の額 直前の事業年度終了の日における特例認定承継会社の有利子負債の額が、その日の属する事業年度の売上高の6月分に相当する額以上 直前の事業年度終了の日の1年前の日における特例認定承継会社の有利子負債の額が、その日の属する事業年度の売上高の6月分に相当する額以上
4 上場会社の株価 特例認定承継会社の事業が属する業種に係る上場会社の株価(直前の事業年度終了の日以前1年間の平均)が、その前年1年間の平均より下落 特例認定承継会社の事業が属する業種に係る上場会社の株価(直前の事業年度終了の日の1年前の日以前1年間の平均)が、その前年1年間の平均より下落
5 その他 特例後継者が特例認定承継会社における経営を継続しない特段の理由がある(解散の場合を除く)

 

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① 減免額の計算:原則

・再計算後の納付金額が当初の納税猶予税額を下回る場合には、その差額が免除される

イメージ図

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・「再計算後の納付金額」の計算方法
次の(イ)及び(ロ)の金額の合計額
(合併の対価として交付された吸収合併存続会社等の株式の価額に対応する贈与税額等を除いた額とし、当初の納税猶予税額を上限とする。)

(イ) 再計算した贈与税額等:次のa又はbの場合に応じ、それぞれに掲げる額を基に再計算した贈与税額等

  1. 譲渡又は合併の場合:譲渡又は合併の対価の額(譲渡又は合併の時の相続税評価額の50%相当額を下限)
  2. 解散の場合:解散の時における株式の相続税評価額

(ロ) 直前配当等の額:譲渡等の前5年間に特例後継者及びその同族関係者に対して支払われた配当及び過大役員給与等に相当する額

 

② 減免額の計算:特例(譲渡又は合併の対価の額 < その時の株式の相続税評価額の50%相当額の場合)

・担保の提供を条件に、譲渡又は合併時に再計算した納付金額は一旦猶予され、譲渡又は合併後2年を経過する日において、一定の要件を満たす場合には、当該猶予されている額と再々計算後の納付金額との差額が免除される

 

イメージ図

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・「再々計算後の納付金額」の計算方法
次の(イ)及び(ロ)の金額の合計額
(合併の対価として交付された吸収合併存続会社等の株式の価額に対応する贈与税額等を除く。)

(イ)再々計算した贈与税額等:実際の譲渡又は合併の対価の額を基に再々計算した贈与税額等
(ロ)直前配当等の額:譲渡等の前5年間に特例後継者及びその同族関係者に対して支払われた配当及び過大役員給与等に相当する額

・譲渡又は合併後2年を経過する日において、一定の要件を満たす場合とは、次のいずれも満たす場合をいう
(イ)譲渡後の特例認定承継会社又は吸収合併存続会社等の事業が継続している
(ロ)これらの会社において、特例認定承継会社の譲渡又は合併時の従業員の半数以上の者が雇用されている

 

2. 適用時期

平成30年1月1日から平成39年12月31日までの間に贈与又は相続若しくは遺贈により取得する財産に係る贈与税又は相続税について適用する。

3. 実務上の留意点

  • 10年間に限定した特例制度の創設である。
  • 特例制度では、贈与・相続・遺贈により取得した全株式に係る贈与税及び相続税の全額について納税が猶予される。
  • 特例制度を適用するには、平成35年3月31日までに特例承継計画を都道府県へ提出する必要がある。
  • 雇用確保要件が大幅に緩和され、加えて減免措置が拡充されるので、将来の業績悪化を気にせず、納税猶予を受けられる。
  • 推定相続人以外の特例後継者への贈与についても、相続時精算課税制度が適用できるため、納税猶予が打ち切りになった場合の税負担リスクが軽減され、承継がしやすくなる。(但し、相続税の納税義務者になる。)

4. 今後の注目点

  • 相続開始後又は贈与実行後の承継計画の提出は認められるか。
  • 「有利子負債」には、同族関係者からの借入金も含まれるのか。
  • 上場会社の株価(直前の事業年度終了の日以前1年間の平均、及びその前年1年間の平均)の確認方法
  • 本制度を適用して贈与を行い、平成40年以降に当該贈与者が亡くなったときの相続税は、現行制度(株数の2/3まで80%減)に戻るのか。
  • 現行制度適用者への救済措置は一切ないのか。

 

 

内容につきましては、「平成30年度税制改正大綱」に基づき、情報の提供を目的として、一般的な概要をまとめたものです。そのため、今後国会に提出される予定の法案等を確認する必要があり、当該法案等において本資料に記載した内容とは異なる内容が制定される場合もありますのでご留意ください。対策の立案・実行は専門家にもご相談のうえ、ご自身の責任において取り組んでいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

 

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