海外デスクレポート
2017年12月22日
中国/中国におけるデット・エクイティ・スワップ(DES)

執筆:中国担当
はじめに
日本親会社が中国子会社に対して債務免除を行った場合に、中国側では債務免除益に課税され、中国ビジネス再構築の妨げになるケースがあります。このような場合に、最近中国子会社においてデット・エクイティ・スワップ(Debt Equity Swap、以下 「DES」とします)の実行を検討されるケースが増えています。
また、中国子会社を清算する場合において、実務上では子会社が債務超過の場合には清算手続きが認められないケースがあります。このため一旦DESによって債務超過状態を解消した後に、清算手続きを進めるケースがあります。(*注)
(*注:子会社の清算を前提として債務免除を行った場合には、子会社損失負担金等について日本の税制上寄付金と認定され、損金算入できない可能性があります。上記のような清算スキームを実行する場合には、日本側の税務についても検証が必要です。)
1. デット・エクイティ・スワップ(Debt Equity Swap)の概要
DESとは、債務者が負っている借入金などの債務を資本に転換し、純資産に組み入れる手続きを言います。債務者にとっては、債務を資本に振り替えることで自己資本の積み増しができ、利払いなどがなくなることで資金繰りの改善にもつながります。一方で債権者にとっては貸付金などの債権を資本金とすることで、株主として債務者の経営に直接関与することができます。これらの特徴からDESは事業再生の手段としてよく用いられています。
2. 日本での税務
日本の法人税法においてDESは現物出資として取り扱います。すなわち、親会社は自身が保有する貸付債権を現物出資し、対価として子会社株式を取得する取引です。現物出資に関する税務は、次の適格要件を満たすか否かにより取り扱いが異なります。
(1) 適格要件
① 完全支配関係(100%の親子関係等)がある場合
現物出資後も完全支配関係が継続する場合には要件を満たします。
② 支配関係(50%超の親子関係等)がある場合
次の要件をすべて満たす必要があります。
イ. 主要資産・負債の引継要件:現物出資事業に係る主要な資産・負債が被現物出資法人に移転されること。
ロ. 従業者引継要件:80%以上の従業員の引き継ぎがあること。
ハ. 事業継続要件:現物出資事業が被現物出資法人において継続されること。
③ 共同事業要件
次の要件をすべて満たす必要があります。
イ. 事業関連性要件:現物出資法人の現物出資事業と被現物出資法人の事業が相互に関連するものであること。
ロ. 主要資産引継要件:現物出資事業に係る主要な資産・負債が被現物出資法人に移転されること。
ハ. 従業者引継要件:80%以上の従業員の引き継ぎがあること。
ニ. 事業継続要件:現物出資事業が被現物出資法人において継続されること。
ホ. 事業規模要件または特定役員要件(いずれかに該当)
・売上高等の差が5倍以内であること、または・現物出資法人と被現物出資法人の役員が現物出資以後も引き続き役員に就任すること。
へ. 継続保有要件:現物出資により交付される被現物出資法人株式を現物出資法人が継続して保有すること。
(2) 適格現物出資に該当する場合
債権者である現物出資法人は、簿価で現物出資を行ったものとされます。したがって、譲渡益等は発生せず、課税関係は生じません。
一方で債務者である被現物出資法人は、現物出資法人の簿価で資産を受け入れます。
(3) 非適格現物出資に該当する場合
債権者である現物出資法人は、時価で現物出資を行ったものとされます。これにより、譲渡損益を認識する必要があり、譲渡益が生じる場合にはこれに課税されます。
一方で債務者である被現物出資法人は現物出資法人の資産を時価で受け入れます。受け入れた資産の時価と発行した株式等の額に差額が生じる場合には、資産調整勘定または負債調整勘定を計上する必要があります。なお、資産調整勘定については5年間で均等償却し損金に算入し、また負債調整勘定については5年間で均等按分して益金の額に算入します。
3. 中国での手続き及び税務
(1) 手続き
① 行政手続き・増資手続き
中国においてDESを行うには、大きく分けて、外債登記の解除申請に係る行政手続きと、増資の手続きがそれぞれ必要となります。
イ. 行政手続き
(イ) 工商局等に対し「債権の持分転換による出資」として登記変更申請(増資手続)。
(ロ) 当該DESの対象となる債権を保有する債権者から資本金転換確認書を取得。
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)に係る書類を外貨管理局に提示し、外貨債務の解除申請を行う。
ロ. 増資手続き
(イ) 増資に関する株主会、董事会決議
各社の定款に基づいて株主会または董事会において増資の特別決議を行う。
(ロ) 認可期間への申請
商務部等に増資に係る書類を提出し、認可申請を行う。
(ハ) 認可期間からの批准証書取得
(ニ) 外貨管理局で許可
外貨管理局で資本金の限度額の増加手続きを行う。
(ホ) 現物出資
(へ) 会計士事務所の験資報告書の発行
会計事務所は増資手続きが適正に行われていることを確認し験資報告書を発行します。
なお、験試報告書の提出義務は2014年に会社法が改正されたことで撤廃されています。ただし、実務上は提出が求められることも多いため、引き続き取得しているケースもあります。
(ト) 工商行政管理局への営業許可証の申請、取得
営業許可証に増資後の資本金を記載します。
(チ) その他監督諸官庁へ変更の届出提出
税務署等に新しい営業許可証を提出し必要な変更手続きを行います。
② 留意点
会社登録資本登記管理規定(国家工商行政管理総局令2014年第64号)においては、債権者がその保有する債権を会社出資持分に転換できるとされています。この法令によれば、借入金だけでなく買掛金などもDESの対象となると考えられます。しかし、外資系企業を管轄するのは商務主管部門であり上記の法令を交付した機関とは異なっています。このため、実務上は外貨管理局において外債登記がなされた債権、すなわち借入金についてのみDESの実施が認められています。
したがって、日本親会社に対する買掛金などについてはDESを行う場合には、一旦親会社から買掛金の支払い原資となる金銭貸付を行って買掛金を支払うなど、債務を買掛金から外債登記された借入金へ転換させるなどの手続きが別途必要になります。また、日本側で子会社の費用の一部を立て替えた際に貸付金として会計処理を行うケースがありますが、中国側では外債登記されていないケースも多く見受けられます。したがって、このケースでは中国側でそもそもDESの手続きを行うことはできません。
(2) 税務
DESは、債務再編という組織再編の一類として取り扱います。通常は「一般税務処理」と呼ばれる方法を適用して債務の時価によって処理を行います。債務者においては、債務の帳簿価額と時価の差額について損益を認識する必要があります。差益が生じた場合には、債務免除益として課税所得の計算上、益金の額に計上され企業所得税が課税されます。
一方で、一定の要件を満たす場合には、「特殊税務処理」と呼ばれる方法が認められ、簿価によって処理を行います。帳簿価額をもって資本の金額として処理を行うため、損益は生ぜず、課税はありません。なお、一定の要件を満たす場合とは、債務者に財務的な困難が生じたため、債務者と債権者の間の書面による協議書又は裁判所の判決書に従って債務者が債務の持分転換を図る場合を言います。
4. 日中間での留意点
日本側が適格現物出資として処理を行い、中国側の債務の簿価と時価に乖離がない場合や特殊税務処理を行う場合には、日中双方において簿価で処理するため、債権・債務について差益を認識する必要がなく、課税関係は生じません。
一方で、日本側は中国子会社に対する債権について適格現物出資として処理したものの
中国側では一般税務処理を行った場合などには、両者が認識する債権・債務の額が異なることとなります。また、中国の商務当局は、外貨管理局に登記された借入金の額と出資持ち分に転換される債務の額が異なる場合には、実務上これを認めない場合があります。このため、実際には簿価でDESを実行しているケースが多く見受けられます。この際に日本側が非適格現物出資として時価でDESを行った場合には、同じく差額が生じます。
上記のように日中で税務上の処理が異なり差額が生じる場合において、日本の税務当局から日本親会社での処理の実態が中国子会社への寄附行為であるものと認定されるケース等もあり、実行前に日中双方での十分な検証が必要です。
- 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
- 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
- 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。
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この記事の著者
大井 高志
税理士法人山田&パートナーズ 海外事業部 パートナー
亜瑪達商務諮詢(上海)有限公司 総経理
税理士・公認不正検査士2013年山田&パートナーズ入所。大手金融機関への出向後、2016年より上海へ赴任。中国系会計事務所への出向を経て2019年より現職。中国・香港・台湾における組織再編、進出・撤退支援、M&A関連業務、コーポレートガバナンス、不正調査対応、内部統制支援等のコンサルティング業務に従事。
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