海外デスクレポート

2022年10月28日

自主的な税務ガバナンス強化を目的とした新制度の創設 (シンガポール)

自主的な税務ガバナンス強化を目的とした新制度の創設 (シンガポール)

1. 自主的な税務ガバナンス強化を目的とした新制度の創設

2022年3月18日にIRAS(シンガポールの税務当局)から、企業の税務コンプライアンスの強化を目的とした新しい2つのタックスフレームワークが公表されました。
公表されたのはTax Governance Framework(税務ガンバナンスの枠組み、以下「TGF」という)とTax Risk Management & Control Framework for Corporate Income Tax (法人税の税務リスクマネジメントとコントロールの枠組み、以下「CTRM」という)の2つのフレームワークです。
このTGFやCTRMを採用し、税務コンプライアンスの強化を実施した企業は、その恩典としてシンガポールで行った税務申告に係る一定のペナルティが免除されます。
本レポートでは、新設されたTGFとCTRMについて、制度の概要を解説致します。

(1) 制度の概要と目的

TGFは、シンガポール企業の税務ガバナンスを強化し、取締役会レベルにまでその管理を求めることに重点を置いています。TGFには、①税法の遵守、②税務リスクを管理するためのガバナンス体制、③税務当局との関係の主に3つの観点から一連の幅広い原則と実践が記載されます。TGFは法人税とGST (Goods & Services Tax、日本の消費税に相当)に適用されます。
CTRMは、シンガポール企業が法人税のリスクを特定、軽減、監視するための強固な内部統制プロセスを確立するための指針となります。CTRMは税務リスクを管理するための健全な統制があることを実証するプロセスや手段を盛り込んだ自己評価チェックリストを含んでいます。

(2) 導入による恩典

TGFやCTRMを採用した企業に対しては、発見した税務申告の誤りについて自主的に修正申告を行う等の一定の要件を満たす場合、その申告に係るペナルティを免除するという恩典が与えられます。
① TGF
下記の一期間内に自主的な修正申告を行った場合に、その申告に係るペナルティが免除されます。
・ 法人税や源泉所得税 … IRASの承認を受けてから2年間
・ GST … IRASの承認を受けてから3年間

② CTRM
過年度の法人税及び源泉所得税の誤りについて自主的な修正申告を行った場合に、その申告に係るペナルティが1回に限り免除されます。

なお、意図的な脱税や深刻な租税回避を伴う違反行為やIRASによる調査により発見された誤りについて、これらの免除規定は適用できません。

(3) TGFとCTRMの利用に適したビジネス

TGFは全ての企業が利用できますが、特に複雑なストラクチャーやビジネスモデルを有する企業、税に関する説明責任と透明性の重要性を認識している企業、会社の継続的な業績と税務を管理するために優れた税務ガバナンスを実践したいと考える企業に適しています。
また、CTRMは上場企業や多国籍企業などの複雑な構造とビジネスモデルを持つ大企業をターゲットとしています。

(4) 申請からステータス付与までの流れ

① TGF
下記の手続で申請を行い、IRASが過去の法令遵守の記録等の要素をもとに申請の評価を行い、IRASによる承認後、TGFステータスが付与されます。
(ア) 自社の税務ガバナンスポリシーをその企業のウェブサイトまたは一般に公開されている年次報告書に掲載
(イ) TGFに関する宣言書に必要事項を記入し、自社がTGFに掲載されている指導原則と主要な実務を遵守していることを確認
(ウ) Form SGを通じてTGFの申請書を提出

② CTRM
下記の手続で申請を行い、IRASが申請企業の法人税コンプライアンスに関する内部統制プロセスの適切性、有効性、リスク等をもとに評価を行い、IRASによる承認後、CTRMステータスが付与されます。
(ア) 申請前に参加の前提条件を満たしていることを確認の上、IRASに申請書を提出
(イ) IRASによる受理後、CTRMチェックリストに必要事項を記入し、自社の内部統制プロセスのセルフレビューを実施
(ウ) CTRMチェックリストについてCTRMレビュアー(IRASが評価・承認をした資格を有する独立した第三者)によるレビューを受け、他の必要書類と共にIRASに申請

(5) 新しいフレームワークの活用可能性

新設された2つのタックスフレームワークは、IRASが求めるレベルの税務ガバナンスを構築するインセンティブを企業に持たせるために、また税務コンプライアンス強化時の企業側に生じる懸念を払拭するために、自主的修正申告に係るペナルティを免除するという恩典が与えられたと考えられます。
シンガポールの制度上、申告に誤りがあった場合のペナルティが重いため、誤りを予防し自社で誤りを発見出来る体制の構築が重要となります。新設された2つのタックスフレームワークは、 自社の税務コンプライアンスの強化を検討される企業にとって参考になる制度と考えられます。

熊谷 仁志

税理士法人山田&パートナーズ
海外事業部 パートナー/公認会計士

2004年入社。日本国内にて、組織再編、M&Aコンサルティング、法人業務経験を経て、2016年4月よりシンガポールに駐在。日系企業の進出、現地での管理運営、組織再編を多数経験。

  • 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
  • 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
  • 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。
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