2023年2月の2023年度予算案で公表済の19の税制改正項目に加え、国際的な税制動向や政策目的をより適切に反映等するため、追加で14項目が法案に盛り込まれました。
この中でシンガポールに経済的実体のない企業(「関連事業体」)が国外にある不動産または動産(「海外資産」)の売却によって、シンガポール国内で受領した利益に課税を行う改正法案が公表されています。
(1) 改正の背景
欧州連合(EU)が2021年1年10月に、有害な租税競争対策の一環として実施したレビューでは、シンガポールにおける外国源泉所得免税制度(Foreign Sourced Income Exemption、以下「FSIE」)は「有害な制度」には該当しないと判断されていました。
しかし、2022年12月のEU行動規範の更新等により、「経済的実体要件の対象となるべき制度の対象となる所得のカテゴリーとしてキャピタルゲインが該当する」旨が明示的に言及されたこともあり、EU行動規範に従うこと等を背景に本改正案が公表されています。
キャピタルゲインについての非課税措置という、現行のシンガポール税法の枠組みに対する注目すべき改正案となっており、今後の動向が注目されています。
【関連規定】
シンガポールでは、法人税の課税所得の範囲についてテリトリアル課税方式が採用されており、内国・外国法人を問わず、シンガポール国内で稼得した所得についてのみ課税され、原則としてキャピタルゲインは非課税とされています。
さらに、シンガポール国外で稼得した所得が、FSIEに該当し一定の条件を満たす場合は、シンガポールで受け取る外国源泉所得について非課税とされています。
(2) 制度概要
2024年1月1日以降にシンガポールに経済的実体の無い一定の法人(関連事業体)がシンガポール国外にある資産の売却等によって稼得した所得をシンガポールで受け取った場合、例外規定に該当しない限り、当該所得に対してシンガポールで課税されます。
シンガポールの主要な税制であるキャピタルゲインに対する非課税措置制度そのものは、この改正の影響を受けないものとの見解が示されている一方、当該改正により一定の対象法人については、シンガポール国外株式の譲渡益に対し課税されることとなるため、2024年以降に行われる株式譲渡を伴う組織再編の検討にあたっては、本改正案の検討が必要となる場面も想定されます。
【参考(公表されている内容の一部抜粋)】
関連事業体 |
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海外資産 |
シンガポール国外にある動産、不動産等 【資産所在地判定】
- 不動産 – その不動産が所在する場所
- 株式、有価証券 – 会社/発行者が設立された場所
- 知的財産権、ライセンス – 権利またはライセンスの所有者が居住する場所
- 有形動産(特に指定のないもの) – その有形動産が所在する場所
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シンガポールでの受領とみなされる海外資産の売却又は処分 |
海外資産の売却又は処分による利益のうち、以下の場合にシンガポールで受領したとみなされる
- シンガポールへの送金等
- シンガポールで行われる取引や事業に関して発生した債務の支払いに充当された場合
- シンガポールに持ち込まれた動産の購入に充当された場合
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課税対象となる利益 |
シンガポールで受け取った、又はシンガポールで受け取ったとみなされる利益の純額 (関連支出を差し引いた後)※海外資産の売却が、公開市場価格よりも低い価格で行われる場合、IRAS(シンガポールの税務当局)は、シンガポールで受け取った利益の額、(=海外資産の公開市場価格)として扱うことができる
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- 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
- 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
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