海外デスクレポート

2014年6月29日

シンガポールでの会社設立と運営に関して

シンガポールでの会社設立と運営に関して

執筆担当:シンガポールデスク

シンガポールで事業を遂行するうえで会社の設立およびその運営方法を理解しておくことは重要です。

会社設立

進出形態の選択

シンガポールで事業体を設立する場合、株式会社を選択される場合が一般的ですが、進出の目的や事業計画の段階によっては駐在員事務所または支店を選択される場合があります。

【駐在員事務所(Representative Office)】

本格的な事業進出を行う前の市場調査や情報収集を行うことを目的に設置されます。
外国法人たる本社の出先機関の位置づけであり駐在員事務所自体に法人格はありません。実施できる業務範囲が販売促進業務と連絡業務に限定されており営業活動を行うことはできませんが、法人税の申告や財務諸表の作成・登記が不要であるなど運営コストが低いため事前の市場調査や情報収集活動を行うに適した形態であるといえます。設立にあたっては所管官庁であるシンガポール国際企業庁(International Enterprise Singapore : IE)へ登録申請しますが、駐在員事務所を開設する外国企業は、設立後3年以上経過していること、売上が25万米ドル超であること、シンガポールに配置する駐在員が5名未満であること、が求められます。

【支店(Branch)】

駐在員事務所と同じく外国法人たる本社の出先機関の位置づけであり支店自体に法人格はありませんが、営業活動を行うことができます。最低2名のシンガポール在住者をローカルエージェントとして任命する必要があるほか、支店の財務諸表を作成し外部監査を受けたうえで登記局に登記し一般開示する必要があります。またあわせて本店の財務諸表も登記開示する必要があります。
法人税の申告も行う必要があります。なお支店は外国法人たる日本本社に含まれるため、日本本社の日本での法人税課税の対象となります。シンガポールで納付した支店の法人税は日本での納税時に外国税額控除として控除することができます。したがってシンガポール支店の利益は最終的には日本での法人税率にて課税される結果となります。一方でシンガポール支店が赤字の場合には日本本社の課税所得を圧縮することができます。

【株式会社】

日本のいわゆる株式会社にあたるのが有限責任株式会社(Company limited by shares)であり最も一般的な進出形態です。日本本社とは別の法人格を有する事業体であり本社とは別途取締役を選任する必要がありますが、シンガポール在住者を最低1名任命する必要があります。一部例外を除き原則として財務諸表は外部監査を受けたうえで登記局に登記し一般開示する必要があります。
法人税を申告する必要がありますが、支店とは異なり日本の本社とは別会社であるため、日本の法人税が課税されることはありません(外国子会社合算税制の適用対象となる場合等を除く)
シンガポール子会社の利益を日本本社に配当する場合、シンガポールでは配当源泉課税はなされず、日本本社においては配当額の95%は免税となります(出資比率が25%以上で6ヶ月以上継続保有している場合)。

会社の機関

シンガポールに設立した株式会社は日本と同様に取締役の選任や株主総会の開催が必要となります。また秘書役を選任する必要があるなど日本にはない制度を理解していく必要があります。

【取締役】

1名以上の取締役を選任する必要がありますが、そのうち1人はシンガポールに居住している者である必要があります。会社設立時にシンガポール居住者を取締役として選任することができない場合は、名目の取締役を選任することが実務上一般的です。実際の取締役候補者が会社設立後に就業許可証を取得しシンガポールでの居住を開始した後に、名目取締役は辞任し、実際の取締役が就任することになります。
シンガポールの会社法は取締役の選任方法について規定していないため、定款の定めにしたがって選任することになります。株主総会を選任機関とする旨を規定していることが多いと思われますが、取締役会の決議で選任する旨を規定することもできます。また、シンガポール会社法には取締役の任期に関する規定はなく、定款に定めをおくことになります。
なお、日本のような監査役の制度はありません。

【株主総会】

シンガポールの株式会社は、決算日の6ヶ月以内(上場会社は4ヶ月以内)または前回の株主総会から15ヶ月以内に定時株主総会を開催する必要があります。普通決議は出席株主の議決権総数の過半数、特別決議は出席株主の議決権総数の4分の3以上の賛成が必要になります。日本の特別決議が3分の2以上であるのと異なる点に留意が必要です。

【秘書役】

シンガポールの株式会社は、会社の機関として最低1名の秘書役(カンパニー・セクレタリー)を選任する必要があります。秘書役はシンガポール居住者であることが求められます。日本にはない制度ですが、シンガポール会社法上の登記事項について当局に提出する書類の作成および登記、株主総会議事録・取締役会議事録などの法定帳簿の作成・保管が主な業務になります。実務上は会計事務所などに秘書役の就任と業務執行を委託することが一般的です。

決算スケジュール

基本的には期末後6ヶ月以内に株主総会を開催し監査済財務諸表を株主総会に提出することになりますが、例外もあるため留意が必要です。

【決算日の決定と初年度決算スケジュール】

株式会社の場合、決算日は自由に決定することができます。会社設立初年度の株主総会の開催と決算日に関して以下のルールが規定されています。

 - 会社設立後から18ヶ月以内に最初の株主総会を開催する
 - 株主総会には直近6ヶ月以内の財務諸表(監査済)を提出する

そのため、たとえば決算月を3月とする場合で、2014年1月1日に会社を設立した場合、2014年3月31日を第1回決算日とし、期末日から6ヶ月以内(設立から9ヶ月以内)に株主総会を開催することになりますが、2015年3月31日を第1回決算日とし、期末日から3ヶ月以内(設立から18ヶ月以内)に株主総会を開催することも可能です。
ただし株主総会に提出する監査済財務諸表を3ヶ月以内に準備するのは特に会社設立初年度では実務上日程的に厳しいため、期末日から株主総会開催まで十分な期間を確保できるような設立スケジュールを検討すべきであるといえます。

【次年度以降】

次年度以降は以下のルールに従って決算および株主総会の運営を行う必要があります。

 - 前回の株主総会から15ヶ月以内に次の株主総会を開催する
 - 暦年に1度は株主総会を開催する
 - 株主総会には直近6ヶ月以内の財務諸表(監査済)を提出する

上記の会社の場合で、2014年3月31日を第1回決算日とし、2014年9月末に株主総会を開催した場合、次年度の2015年3月期の株主総会の開催期限は2015年9月末になります。
なお、2015年3月31日を第1回決算日とし、2015年6月末に株主総会を開催した場合には、次年度の2016年3月期の株主総会の開催期限は、前回の株主総会から15ヶ月以内に開催すればよいため、6月末ではなく2015年9月末までとなります。
基本的には決算後から6ヶ月以内の株主総会開催となりますが、以下のようなケースも生じ得るため留意が必要です。
2014年3月期の株主総会を2ヵ月後の2014年5月末に開催した場合、翌年2015年3月期の株主総会の期限は5ヶ月以内の2014年8月末となります。
(前回株主総会から15ヶ月以内ルールが適用されるため)
2014年7月期の株主総会を3ヶ月後の2014年10月末に開催した場合、翌年2015年7月期の株主総会の期限は5ヶ月以内の2015年12月末となります。(暦年1回開催のルールが適用されるため)

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