執筆:シンガポール担当
2016年3月24日、シンガポールにおいてBudget 2016(2016年度予算案)が公表されました。足元の経済成長が鈍化している中、将来の建国100年へ向けて企業及び技術革新を通じた経済変革を促すための様々な施策が盛り込まれています。
当該予算案の中で今後シンガポールでのビジネス展開を検討される日系企業に影響があると考えられる項目を中心に解説致します。
■企業の自動化支援パッケージ(Automation support package)の導入
企業の生産性向上(自動化、効率化、規模拡大)の支援の為、自動化支援パッケージが導入されます。自動化支援パッケージとは、一定の自動化設備を取得した場合、補助金や税制優遇(減価償却費に加えて投資額相当の損金算入を認める優遇措置)を付与する制度です。
制度の詳細は今後MTI(Ministry of Trade and Industry通商産業省)より公表される予定ですが、日本の高い自動化やロボット技術の導入による活用が期待されます。
なお、2010年度の税制改正で導入されたPICスキームと呼ばれる、6つの適格活動に係る支出について、年間S$400,000までの支出額に対して、400%の所得控除又は60%(2016年8月1日以降は40%)の現金補助が行われる制度は賦課課税年度2018年をもって終了します。
■株式売却益の非課税措置の延長
資本取引から生じるキャピタルゲインは非課税であり、資本取引以外から生じるキャピタルゲインは課税ですが、資本取引に該当するか否かの判断は、原則として保有期間、取得目的等を踏まえて総合的に行われるため、不透明な制度となっています。
そこで、納税者の予見可能性を高める観点から、株式の譲渡については2年以上継続して20%以上保有していた場合、株式売却益を非課税とする取扱いが2017年3月までの措置として設けられていました。
今回の改正で適用期限が5年延長され、2022年3月末までとなります。
ベトナム、インドネシアやインドなどで事業投資を行う場合、将来の売却を想定して、シンガポール法人を介して、間接的に投資するケースがよく見受けられますが、少なくとも2022年3月末までは将来の株式売却に関する税務リスクが軽減されます。
■知的財産権の譲渡が時価で行われなかった場合の調整措置の導入
知的財産権の譲渡が時価で行われなかった場合、IRAS(Inland Revenue Authority of Singapore 内国歳入庁)が時価で取引したものみなすことが出来る措置が設けられました。当該取扱いは2016年3月25日から適用されます。
知的財産権をシンガポールに移転し、日本や各国関連会社からロイヤリティを徴収することで、グループ全体の税負担の軽減を検討される場合、知的財産権の移転対価の評価については十分な注意が必要となります。