執筆:台湾担当
2016年5月に民進党(中華民国:以下台湾)を率いる蔡英文氏が総統に就任した台湾。国民党政権からの変革、中国大陸との関係も考慮した上での大きな舵取りが期待されています。政治的に大きな転換点に立っている台湾について、本稿では、現状の日系企業の進出動向、台湾経済及び2016年12月23日より施行されている労働法の改正について考えてみたいと思います。
台湾において日本人公認会計士として日系企業の台湾進出をサポートしている立場にある小職の肌感覚からすると、2017年1月現在においても日系企業の台湾進出は順調であり、主に日本商品を対象とした小売、卸業、インターネット事業及び飲食事業等の比較的単位の小さな投資が増えているように感じられます。台湾へ進出する日系企業は新たな市場を求めて、約2,300万人の人口を有する台湾を市場として捉え、また中華圏への足掛かりとするため、有力な台湾企業とのリレーションを構築する事を目的として進出しているケースが大部分を占めています。また東南アジア諸外国に比較して、外資規制が比較的緩やかで、特殊業態を除いては、100%日本出資による法人設立が可能となっている事も、日系企業が数多く進出している理由です。
台湾経済を見てみると、2017年1月25日、台湾行政院(主計総処)が発表したデータによると2016年度通年におけるGDP成長率は+1.4%となっており、当初の政府予想値を上回る結果となっています。また、2016年度の第四四半期だけを見た場合には、+2.58%のGDP成長率となっており、台湾経済が順調に回復傾向にあると見てとれます。そのような経済数値を鑑みれば、半導体産業を中心とした輸出産業を国の柱とする台湾にとっては、良い傾向にあり、新政権も一安心したといった状況ではないかと推測しています。
一方、台湾国民に対して経済成長を実感させるといった点も新政権の大きな課題です。台湾において国民平均所得は長らく平行線を辿っており、国民は経済の成長を実感できていないと言われることが良くありますが、新政権における政策の柱とされたのが上記既述の労働法の改正です。主な内容としては、最低時給の引き上げ(125NTD/時間から133NTD/時間へ変更)、休日出勤等を考慮した職員残業代の計算方式の変更及び有給付与日数の変更です(中国語:「一例一休及新制加班費」)。当該変更により、台湾で勤務する職員は有給日数が増加し、また残業代も増額され、国民生活の向上に資するとも言えますが、中小企業の多い台湾においては経営者にとっては大きな負担となります。(具体的には休日出勤をした場合には、約2割程度の残業代の増加が見込まれます。)台湾に進出している日系企業にとっても、負担増は同様で、人事労務、人件費の管理が台湾ビジネス成功のカギを握っているのではないでしょうか。
労働法制度改正概要
【最低時給】
125NTD/時間から133NTD/時間への引き上げ
【残業代計算方法の変更】
休息日の休日出勤手当についての支給は、4時間単位で計算することになります。
例えば、休息日に休日出勤を2時間した場合でも4時間分の休日出勤手当を支給、6時間休日出勤した場合なら8時間分の休日出勤手当を支給しなければいけません。
例假日については、台風などの天災時に出勤する場合、2倍の給与を支給する以外に1日の振替休日を支給しなくてはならなくなります。
※休息日…法定外休日。調整可能な休息日。
例假日…法定休日。定例の休み。