海外デスクレポート
2024年11月11日
ミャンマーへの投資状況と隣国からの投資スタンス見直し (ミャンマー)
1. ミャンマーへの投資状況
「アジア最後のフロンティア」、ミャンマーは2021年2月のクーデター発生前にはこのように呼ばれていました。2011年3月にミャンマーが民政移行に踏み切って以降、欧米からの経済制裁が解除されたのを各国の投資家が好機と捉えて、また、2011年9月に発生したタイの大洪水以降新たな転地の期待を込めて、ミャンマーがこの言葉とともに注目を集めた経緯があります。
また、総費用1兆円の巨大なプロジェクトとされるダウェイ経済特区の開発プロジェクトにも2015年7月に、ミャンマー・タイ・日本と3か国で開発協力に関する意図表明覚書(MOI)が締結され、日本がさらにミャンマーに関与していく期待は膨らんだ環境にありました。2016 年には、中央銀行にチャットの決済システムが導入されチャット送金の利便性が大きく向上し、また同年には内国投資法と外国投資法を統合する形で新たな投資法が成立、投資環境が整備されつつある環境でした。
一方で、2021年2月にミャンマー国軍がクーデターを起こし軍事政権が発足以降、同国への外国投資は政情不安の打撃を受け、冷え込みました。以下の投資認可額の推移にもそれが如実に表れています。ミャンマーの投資企業管理局(DICA)によれば2023年度のFDIの認可額は4年連続で減少、10億US㌦を下回る水準に至り、直近ピークの2019年度に比べて9割減少に至りました。単年度の国別ではシンガポールが3.5億US㌦、中国が2.3億USと、この上位2ヶ国で全体の9割弱を占めるのが特徴です。
国別の投資額の累計ベースでも、シンガポールと中国が突出して1~2位を占めています。シンガポールからの投資は、シンガポールに本拠地を構えるシンガポール地場企業からの投資と、シンガポール国外に本社がありシンガポールには現地法人や子会社を設けそのシンガポール拠点から投資をするケースを含みます。中国からミャンマーへの投資には、欧米がミャンマーに経済制裁を課していた環境下に、同国との関係を強化し水力発電や石油開発・パイプなどのエネルギー関連投資を行い中国への輸出による安定供給を図ってきた経緯があります。タイは上位2ヶ国とは離れた第三位にランクされます。隣国でミャンマーからの労働者の往来も多く、タイからは携帯電話やガソリンの輸出、ミャンマーからは天然ガスや穀物、魚介の輸出といった国境貿易の歴史もあります。
投資プロジェクト承認額の国別の累計(1988年~2024年7月)
単位:百万US㌦
以下の円グラフは業種別の外国投資の累計です。電力分野、石油・ガス分野の投資で5割超を占めていますが、これは1件あたりの投資案件の規模がその業種の性質から大きいことにも起因します。一方で、最新の単年度の速報ベースでは、2024年度の認可プロジェクト26件の内製造が23件を占め、認可は中国からの小規模製造業に偏在していることが直近の特徴です。
出所:Foreign investment by country | Directorate of Investment and Company Administration (dica.gov.mm)
2. 隣国タイの投資スタンス
第一の事例は、出資先の株式売却による事業の撤退です。タイでの栄養ドリンクのマーケットシェアトップの約3割を占め、ラオスでもミャンマーでもマーケットリーダーの地位を確保するM-150ブランドで有名なタイの飲料メーカーのオーソトサパーは、2024年8月末に、ミャンマー地場の会社との合弁事業(飲料瓶の製造と流通を営む)を解消し、オーソトサパー社保有の全株式を第三者であるミャンマーの農薬の会社に譲渡する旨を発表しました。出資先2社の売却総額は、約34億円で年内の譲渡を予定しています。オーソトサパー社は、投資に関して飲料を主とするコア事業とそれ以外のノンコア事業の2種類に分類しています。同社は「本件はノンコア業で且つ経営権の過半を掌握できていない事業につき売却を決めた、また本業であるミャンマーでの飲料販売には影響がない」と説明しています。
第二の事例は、工場の稼働停止に起因するミャンマーから撤退です。タイの素材最大手で王室系の名門企業であるサイアム・セメント・グループ(SCG)は、2013年後半から約4億US㌦を投じミャンマー南東部のモーラミャインで現地パートナーと合弁を組みセメント工場を建設し2017年から操業開始をしたのですが、今般、2年以上もの稼働停止を経て、生産停止に向けて本格的に検討することに至りました。工場の稼働停止の要因については、SCGは言及していませんが、ミャンマー国内の問題から再開の目途が立たなくなったと報道されています。また、工場内に設置された機械の盗難や維持メンテも懸念の要因とし、SCGとしては決断をすべきタイミングを迎えたとしています。ミャンマーには、北部に中国企業のセメント生産の拠点がありその中国系工場で生産されるセメントの生産調整を含め軍がある一定の管理をしているので、SCGとしては当面の長い期間こういった情勢では入り込めず、従業員を危険にさらすわけにもいかない、と結んでいます。タイ企業は従来は人件費の安いミャンマーに注目し労働集約型の産業をタイからミャンマーに一部シフトの動きがあり、ミャンマー経済を牽引するには中国とタイである旨が定説でしたが、現状は大手のタイ企業でもミャンマー戦略を見直す動きがあります。
- 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
- 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
- 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。
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この記事の著者
額田 正憲
税理士法人山田&パートナーズ
業務推進部 部長1992年大手都市銀行に入行以来、タイ15年半、フィリピン2年勤務、東京でのアドバイザリー業務5年をもってアジア・オセアニアでのビジネス環境の改善に従事。2024年税理士法人山田&パートナーズ入所。各地域での経営環境・税務課題の解決に向けた支援に取り組む。
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