1. 背景
コロナウイルスによるパンデミックの後、医療や介護など様々な理由で米国に長期間居住していた方が日本に帰国することを検討するケースが増えています。一方で海外を跨ぐ転居をする際には、開示制度や所得税・贈与税・相続税での思わぬ落とし穴が生じるケースもあります。今回は米国から日本に転居する際の日米それぞれの課税上の留意点について整理します。
2. 米国の留意点
• 米国出国税について
米国出国税は、グリーンカードを8年以上保有している方または米国市民権を有している方がそのステータスを放棄する際に、その時点で全世界の純資産が2,000,000USDを超える場合等に気をつける必要があります。もしこの出国税の対象になってしまった場合には、持っている財産を売ったものとみなす、IRA(Individual Retirement Account。個人退職勘定。個人が金融機関で開設する税制優遇のある年金積立制度)をすべて引き出したものとみなす等の措置により、税金が課されます。
日本帰国後にグリーンカードのステータスを維持することは難しいケースが多いため、事前に想定される納税額を把握しておくことをお勧めいたします。
• 米国申告義務および情報開示制度について
グリーンカードや米国市民権を有している方は、米国出国後に日本に居住する場合でも、所得が発生すれば米国に税務申告書の提出が必要です。また、日本等の米国外に預金口座や証券口座を保有していることを報告するFBARやForm8938をはじめとする米国情報開示義務も引き続き継続されます。開示をしなかった場合には厳しいペナルティが課されることもあるため注意が必要です。
3. 日本の留意点
• 日本申告義務および情報開示制度について
米国出国後に日本で居住し日本国内所得や米国等の日本国外所得が生じる場合、日本で所得税を納税する義務があります。ただし、前述の通り、米国にもこれら所得に申告義務を負うため、二重課税を排除する方法を検討する必要があります。また、米国では非課税となるような不動産の譲渡所得の特例やRoth IRAの引き出しなどについて、日本では課税となるような場合もありますので、事前に検討する必要があります 。
併せて、日本居住者が海外に5,000万円以上の財産がある場合には国外財産債務調書という情報開示を行う必要があります。正しい知識をもって二重に納税が生じないように、もしくは課税の特例の恩恵を受けられるように注意する必要があります。
• 相続税、贈与税について
日本に帰国し将来的に相続を日本で迎える可能性がある場合には日本の相続税や贈与税にも気を付ける必要があります。米国では生涯控除が12,000,000USD(2022年現在)あり、配偶者に贈与することなどに抵抗がない方が多いですが、日本の贈与税の基礎控除は大きくなく、多額の税金が生じてしまいます。
4. まとめ
米国から日本に帰国する際には、日米様々な面から思わぬ落とし穴に落ちないように配慮し、事前にできることは無いか慎重に検討する必要があります。日本と米国それぞれの開示制度や課税制度を理解し安心して帰国できるよう、将来的な日米両国の相続税を含めて、双方に精通した専門家の意見を聞くことをお勧めいたします。
- 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
- 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
- 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。