海外デスクレポート

2022年11月29日

日本から米国に出国する際の留意点 (米国)

日本から米国に出国する際の留意点 (米国)

コロナウイルスの影響により米国から日本へ帰国する方が増えた一方で、米国子会社に赴任する方、入国制限の緩和やドル高の影響により米国でビジネスを開始する方、勉強のため米国に留学を検討される方のご相談も増加しています。特に日本から米国に赴任する場合や米国ビジネスを開始する場合は、所得や財産があることが想定されますが、米国では日本と異なる税務申告や開示制度が設けられております。ここでは、米国への赴任等で特に留意すべき事項を整理いたします。

1. 米国への転入について

(1) 米国納税義務

米国居住者は、基準控除額(独身の方の場合2022年は$12,950)を超える収入がある場合は、米国において所得税申告書を提出する必要があります。申告期限は原則翌年の4/15となります。米国には、日本のような年末調整制度がないこともあり、ほとんどの方が確定申告義務を負っています。

なお、米国居住者に該当するかどうかは、米国税法上の判定によりますが、まず、実質滞在日数テストが用いられます。ただし、グリーンカードの有無、ビザの種類により取り扱いが異なる場合がありますのでご留意ください。

<実質滞在日数テスト>
下記A)及びB)を満たす場合は米国税法上の米国居住者となります。
A) 当該暦年中の滞在日数が31日以上であること。
B) 次の3つの合計が183日以上であること。
 a. 当該暦年中の滞在日数
 b. 前暦年中の滞在日数×1/3
 c. 前々暦年中の滞在日数×1/6

例外的に、学生が取得するFビザ等について滞在日数にかかわらず米国非居住者として扱われるものもありますので、ご留意ください。

なお、米国税法上の米国居住者及び日本税法上の日本居住者の両方に該当してしまう場合は、日米租税条約においていずれか一方の居住者とするための判定が定められています。

(2) 米国情報開示制度

米国居住者となった場合には、日本に預金口座や証券口座を保有していることを報告するFBARやForm8938をはじめとする情報開示義務が生じます。開示をしなかった場合には厳しいペナルティが課されることもあるため注意が必要です。

<情報開示が求められるケース>
A) 日本に預金口座や証券口座をもっている
B) 日本で非上場会社を経営し株式をもっている
C) 日本の両親から贈与や相続により財産を承継した
D) 日本で投資信託を保有している

2. 日本からの転出について

(1) 日本国外転出時課税

日本から米国などの国外に移住する方が1億円以上の有価証券等を保有している場合には国外転出時課税に注意する必要があります。これは出国する際に当該有価証券等を売却したものとして所得税を支払うという制度です。

ただし、国外転出時課税を納税した後の有価証券等の取得費が米国においてどのように取り扱われるかについて不明確であるということも認識しておく必要があります。 

なお、将来日本へ帰国の可能性がある場合には、担保提供等の条件がありますが、納税猶予をうけることが可能です。ただし、猶予期間は初回申請時で5年間、延長申請を行った場合でも合計最大10年間ですので、5年以内又は10年以内に日本帰国の可能性がある方については、納税猶予制度の利用もご検討ください。

3. まとめ

日本から米国へ出国する際には日本と米国双方の義務がどのように変化するかを確認し、事前にできることは無いか慎重に検討する必要があります。

特に、日本法人の経営者やそのご子息の方で、当該法人の株式を有するまま米国子会社設立等のため長期間赴任されることを検討される場合には、日本国外転出課税及び米国側の税負担や情報開示制度も踏まえて事前に検証しておくことをお勧めいたします。

 


  • 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
  • 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
  • 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。

 

  • 遠藤 元基

    この記事の著者

    遠藤 元基
    Yamada & Partners USA, Inc.
    パートナー 日本税理士・公認不正検査士

    2007年税理士法人山田&パートナーズ東京本部入所、2011年福岡事務所開設・同所長就任。2019年よりベトナム及びタイに駐在。2023年より米国駐在。エステートプランニング、クロスボーダーM&A、グローバル組織再編、海外子会社不正調査など幅広い業務に対応。

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