日本居住者が個人で保有している米国不動産を日本法人(資産管理会社など)に移転、もしくは売却して利益を確定する動きが加速しています。これは、米国不動産は個人所得税において減価償却制度を利用した税金の繰延効果として多く利用されていたものが、令和2年度税制改正において国外中古建物に係る減価償却費について損益通算に制限がかかったことに起因しています。
ただし、日本法人が米国不動産を移転させる場合、日本法人に下記の米国課税についても留意が必要です。
(1) 譲渡実行時
日本法人が米国不動産を購入する際に、建物と土地の会計税務上の按分方法を検討する必要があります。一般的に利用される指標としては下記2つがあり、不動産の所在州や情報の正確さによって適用する指標を検討することが必要です。
・固定資産税の課税明細書(Property Tax Assessment Value)
管轄する市や群が計算している土地と建物の金額の記載があります。
所轄によっては最新の時価が反映されていない場合がある点や、不動産購入後金額が変動することがある点について注意する必要があります。
・鑑定評価書(Appraisal Report)
物件ごとの状況を分析した結果を反映し、土地建物の按分を依頼することが可能です
恣意性が高いものがある点について注意する必要があります。
また、土地建物以外にも動産を計上するためにコストセグリゲーションの報告書を取得することも一般的です。
(2) 米国不動取得後
日本法人が米国不動産を取得し、その後賃貸する場合には、米国不動産賃貸ビジネスに係る収支について米国法人税を申告する必要があります。米国非居住者が米国不動産を賃貸する場合、米国では2種類の課税方式として下記のいずれかを選択できます。
なお、日本法人が下記の米国源泉税や米国法人税を納めた場合については、日本法人税の計算において外国税額控除の適用を検討する必要があります。
・源泉徴収方式
賃料収入(Gross Income)の30%を源泉徴収として米国歳入庁に納める方式です。この方式の場合には後述する米国法人税申告書の作成と提出が不要となります。一方で納税負担が多くなってしまうため、実務上は次の申告納税方式に基づき納税をすることが一般的です。
・申告納税方式
賃料収入から各種経費を差し引いた利益(Net Income)を課税標準として税金を計算します。申告納税方式を選択するためには初年度の税務申告書に申告納税方式を選択する旨を意思表示する文書の添付が必要です。また、不動産の管理会社やテナントにFormW-8ECIを提出することが求められます。
米国法人税申告はForm1120Fにより行い、現行の法人税率は一律21%、申告期限は原則事業年度末の3ヶ月後の翌月15日となります。また、州によっては、収入、利益、資産価値など様々な要素を基準として税金を計算する場合がありますので、米国不動産が所在する州の法律を確認する必要があります。
なお、日本法人が申告納税方式を選択し、米国法人税申告書を作成するためには事前にFormSS-4作成し、EIN(Employer Identification Number)と呼ばれる納税者番号を取得する必要があります。
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- 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
- 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。