1. 背景および概要
米国には様々な情報開示義務の制度が存在しており、その内容は複雑かつペナルティが高いものとなっています。そのため、米国の納税者は毎年の申告時において情報開示に漏れがでないように慎重に手続きを進める必要があります。
今回情報開示義務の中で代表的なFBAR(Foreign Bank and Financial Accounts Report)について、2023年2月28日に米国最高裁判所により故意がない場合の報告漏れに関するペナルティが口座ごとではなく報告書ごとに計算されると判断されました。
2. FBARについて
① 主な開示対象者
税法上の米国居住者(US-resident)が次の②の財産を持っている場合は、その詳細を米国財務省(FinCen)に報告する必要があります。ここにいう米国居住者とは一般的に次の者を言います。
・ 米国市民権保持者(US-citizen):居住地関係なく米国居住者に該当
・ 米国永住権保持者(Green Card holder):居住地関係なく米国居住者に該当
・ 実質滞在日数テスト:下記A)及びB)を満たす場合には米国居住者に該当
A) 当該暦年中の滞在日数が31日以上であること
B) 次の3つの合計が183日以上であること。
a. 当該暦年中の滞在日数
b. 前暦年中の滞在日数×1/3
c. 前々暦年中の滞在日数×1/6
② 主な開示対象財産と内容
米国国外で保有する預金口座、証券口座、解約返戻金のある生命保険契約等の金融資産が対象となり、毎年の最高残高や所在地などを報告する必要があります。
③ 報告漏れに関するペナルティ
故意がない場合(Non-willful):$10,000
故意がある場合(Willful):残高の50%と$100,000の高い方
※今回の判決において当該故意がない場合のペナルティは報告書ごとに計算されるものと判示されました。
3. 最高裁判決の影響
本件の裁判では、米国外に多数の金融口座を保有していた納税者が米国課税当局から$10,000×口座数のペナルティを請求されたところ、最高裁判所により口座数ではなく報告書数により計算されるべきと判断されました。結果ペナルティは$2.72Mから$50,000まで減額されました。「報告書数」とは「年数」とも言い替えられるため、納税者がFBAR申告漏れにより負うペナルティは、故意がない場合に限り毎年$10,000ということが示された判決と言えます。
4. 実務上のポイント
今回の判決では納税者が勝訴しましたが、前提として「故意がない」ことに争いがなかったことが重要と考えます。「故意がある」場合、即ち、FBARという情報開示制度を知っていながらも報告を行わない納税者については、$10,000以上に高いペナルティが課せられることになります。
納税者がFBARの制度を知らなかった場合でその報告漏れに気付いたときには、自主的に修正し開示することで、そのペナルティを減免や減額する制度も米国税務署(IRS)が設けています。
情報開示制度を知らなかった方については、その義務を知ったタイミングで適切に対応策を考えるということが大切です。
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