日本人がアメリカ不動産を取得する際、名義や取得形態は米国側と日本側の両面での検討が必要です。選択する方法によっては、日米の贈与税や所得税が発生する場合があるためです。今回は名義を共同にしてしまったことにより日米双方の税務署から税務否認をうけてしまった事例をご紹介します。
〈 概要 〉
- 当事者:Aさん(不動産購入時の金銭の100%拠出者)、Bさん(Aさんの配偶者)
- ハワイ州に数十年前に不動産を購入。
- 購入時に不動産エージェントに勧められ、プロベート回避のため夫婦共同名義に。
- 贈与税の対象とならないようにするため、毎年賃料収入はAさんのみが日米に申告。
- 当該不動産を売却し、売却時に源泉徴収にて米国課税当局に一部を納税。
- Aさんが100%所有者として日米において最終の売却に関する利益を申告。米国では源泉徴収額の一部を還付請求。
〈 事例の流れと顛末 〉
1. 米国税務当局からの指摘
日米の申告も終えしばらくした頃、Aさんのもとに米国税務当局より書面が届きました。その内容は次の通りでした。
- 申告書に添付された売買時の支払調書をみるとBさんの持ち分が入っているため、過去のBさんの税務申告が漏れている。
- Aさんは売買により生じた利益の50%部分のみを申告すべきであり、還付金も50%しか認められない。Bさんに帰属する50%はBさんが申告するまでは返せない。
当局には、あくまでプロベート回避のために名義を共同していただけであり、Bさんは申告不要で実質的な所有者であるAさんの名義で申告する必要がある旨を説明しても、担当官は聞く耳を持たず、Bさんが申告する必要があるという主張の一点張りでした。
2. 日本税務当局からの指摘
上記とほぼ同時期に日本の税務署から、「アメリカから送られてきた金額についてのお尋ね」がAさんに届き、Bさんに贈与がなかったか、所得税の申告が適正にできていたのかを確認するため過去の経緯の説明を求められました。
3. 対策例
本件では日本の税務署からは当該不動産にBさんの名義は無いことを証明するよう求められ、米国の税務当局からは、Bさんの名義が有るものとして申告するように求められています。
最終的には、米国当局と交渉し、過去の資料や取得の経緯、日米税務の相違点などを説明することで、Aさん単独所有とみなした処理を認めてもらうことができました。
ただし、想定していなかった税金が二重に発生するのではないかという心労が長く続きAさんはこの一連のやりとりで疲弊してしまうこととなりました。
上記のように日本と米国それぞれの制度を分けて検討してしまうと、かえって両国のリスクにつながることが多くあります。今回の事例のように、Aさんは米国のプロベート回避、日本の贈与に認定されないための所得税申告など色々検討した結果、不動産を売却した時点で両国から調査が入るというようなことが生じました。今回のケースでは解決できましたが、同様の事例が必ずしも同じように解決できるとは限りません。仮に購入時に単独名義とし、TODDやトラストなど他のプロベート回避のための手当をおこなっていればトラブルは未然に防げた事例といえます。
アメリカの投資を検討する場合には、出口戦略まで見据えた日米双方の視点からのアドバイスを受けることが重要です。
- 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
- 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
- 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。