2024年1月1日から、米国で事業登録している法人に対して、FinCEN(米国財務省)への情報開示を義務付ける制度が開始しました(Beneficial Ownership Information Reporting、“BOIR”)。日本法人が米国不動産等に投資をしている場合も開示義務を負うことになりますので、適正に手続きを行うことが必要となります。
(1) 報告法人
- 米国法人
- 米国で事業登録している外国法人(例:米国不動産に投資している日本法人)
(2) 開示対象者例
主に下記が対象になります。
- 報告法人のPresident、CEO、COO、CFO(例:代表取締役など)
- 報告法人株式の25%以上有する個人株主
- 報告法人株式の50%以上を有する法人株主に所属する者で、米国事業に対して重要な意思決定権を有する個人(例:報告法人株式の50%以上を有する法人株主の代表取締役)
なお、株式保有割合は直接保有割合だけでなく間接保有も含めて実質的に判定します。
ただし、下記も開示対象者となっており、上記を含めこれらは米国の実務をもとに表現されているため、担当する職務や有する権限に応じて個別の検討が必要です。
- 報告法人に所属する者で、重要な意思決定権を有する個人(例:米国事業のサイン権限を持つ方など)
- 報告法人のGeneral Counsel(例:CLO、法務責任者、取締役に就任している弁護士)
- President、CEO、COO、CFO、General Counselのの選任権又は解任権について、単独または過半数の権限をもつ個人
(3) 開示内容
なお、米国籍や米国州運転免許証等を有している場合は提出書類が異なります。
(4) 報告期限
① 初回レポート(Initial Report)の報告期限
- 2023年に存在している法人:2024年12月31日
- 2024年中に登録する法人:設立(事業登録)から90日以内
- 2025年以後に登録する法人:設立(事業登録)から30日以内
② 更新レポート(Update Report)の報告期限
(5) ペナルティ
- 故意がない場合 遅延日数×500USD(最大10,000USD)
- 故意がある場合 最大2年の禁固刑
(6) 実務的な課題
BOIRは、定期的な開示制度ではなく、初回のInitial Report以降は、開示内容の変更のつど30日以内に報告が必要となっており、例えば下記①のように事業年度とは関係のない報告タイミングが生じる場合もあり注意が必要です。そのため今後、米国法人や米国事業を実施する日本法人は、BOIRの理解と管理が重要となります。
① 報告タイミングの留意点
例えば下記のケースでは更新レポートが必要になります。
- 報告法人の代表者、CEO、CFO、COOの変更
- 米国事業に関するサイン権限のある方の異動
- 報告法人株式の50%以上を有する法人株主に所属する者で、米国事業に対して重要な意思決定権を有する個人の異動(例:報告法人株式の50%以上を有する法人株主の代表取締役を開示対象としている場合に当該代表取締役の変更)
- M&A、事業承継、相続などによる報告法人の主要株主の変動
- 情報開示対象者の結婚、離婚による名字の変更
- 情報開示対象者の住所変更
- 情報開示対象者のパスポート期限の到来
② 開示対象者にパスポートを有していない方がいる場合の留意点
日本ではパスポートを必ずしも多くの人が有しているという状況ではありません。そのため、開示対象者でも現時点でパスポートを有していない方がいる可能性があります。ただし、開示対象者にはパスポートの提出が義務付けられているため、有していない場合は、パスポート取得の依頼が必要です。
③ 開示対象者に未成年株主がいる場合の留意点
開示対象者が未成年株主の場合は、その保護者の情報で代替することができます。ただし、その未成年者が成人年齢に到来した場合は、本人の情報に更新する必要があります。なお、成人年齢の定義は、有する国籍での判定ではなく、米国法人の場合は設立州、米国事業を行う日本法人は最初の事業登録州の法令によります。米国ではほとんどの州で、日本と同様に、成人の定義に18歳が採用されていますが、一部の州では異なりますので留意が必要です。
④ 米国州免許証を有している方の留意点
米国運転免許証を有している場合は、日本のパスポートに代えて米国州運転免許証の提出をしなければなりません。そのため、開示対象者が米国運転免許証を取得した場合は、更新が必要です。免許証の期限が到来し更新した場合や失効した場合も更新が必要です。
⑤ 日本籍と米国籍を両方持つ方の留意点
米国籍を有する場合は、米国パスポート又は米国州運転免許証の提出が必要です。米国パスポート及び米国州運転免許証のいずれも有していない場合は、日本のパスポートの提出が可能です。
⑥ 情報開示の他の類似制度
IRS(米国国税局)の情報開示や州のアニュアルレポートなど米国には株主等の情報開示の義務が複数設けられています。それぞれ開示するタイミングや開示対象者の範囲、必要情報が異なりますので、留意が必要です。
- 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
- 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
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