1. インボイス制度の施行による問題点
2023年10月1日より、いよいよ消費税の「適格請求書等保存方式」、いわゆるインボイス制度がスタートしました。インボイス制度のもとで仕入側が課税仕入を取るためには、①原則として請求書・領収書を必ず受け取り、②適格請求書等であるかを確認、③その後に各取引ごとの税率を把握、④仕訳を起こし、⑤当該請求書等を保管する、という一連の業務を、いずれも省略することなく行う必要があります。
経理業務に携わっている方は既に感じていると思われますが、施行前に対し、①、②、⑤が厳格化されており、業務の煩雑さと作業量の増加に悩まされているのではないでしょうか。
仕入に対する経理作業
なかでも小売業、卸売業、製造業、建設業等の特定の業種においては、仕入先や外注先が多数、かつ各取引数も膨大な数になることも多いと思います。入手した請求書等が適格請求書等であるかの確認をはじめ、仕訳伝票における適格請求書等であるか否かの入力、適格請求書等の保管の業務を全て手作業で行おうとすると、経理担当者はこれらの作業に膨大な時間を費やさせられることになりかねません。
また、コロナ禍を機に多くの企業でペーパレス化が図られ、請求書等の授受をPDF等で行うようになったケースは多いと思いますが、経理作業においては、モニター画面での確認作業やサーバー保管ルールの厳格化などにより却って時間がかかるなど、電子データ故の効率化に頭を悩ますことが多くなったのではないでしょうか。
2. デジタルインボイスの利用について
このような煩雑な事務作業を解決する手段として考えられたのが、Peppolというデジタルインボイスの標準仕様です。
デジタルインボイスでは、売り手のインボイスデータ(売上金額、取引内容、税率、適格請求書発行事業者情報等)を買い手に対して電子的に送信するのですが、その際にPeppolネットワークを経由して送信すれば、標準仕様に従ったインボイスデータに変換して送信されることになります。
標準仕様データの利点はその汎用性です。今まではこれらを電子的にやろうとすると、売り手と買い手のシステムの違いが必ず問題になりましたが、Peppol対応システムならば会計ソフトや販売システムとの親和性を気にする必要がありません。売り手は請求データをPeppol接続システムに送ると自動的に標準仕様でインボイスデータが送られ、買い手は当該システムからインボイスデータを直接に自社の会計ソフトや販売システムに取り込むことが出来るようになるので、上記1①から⑤の作業も半自動的に完了することになります。
Peppolネットワークの仕組み
(出典:デジタル庁HP)
3. 各会計システム会社の対応
パッケージ型会計ソフトを販売する各社の対応ですが、これまで具体的な動きはほとんどなかったのですが、2023年12月現在、いよいよ本格的にPeppolネットワークを利用するデジタルインボイス対応の商品の提供が始まったようです。各社のホームページでその仕組みを見てみると、おおよそPeppolネットワークに接続する際の設定等が難しくならないように、既存の会計ソフトや販売管理ソフトと連携をとるPeppol接続用のソフトウェアがクラウド型で提供されるようです。以下、代表的なシステム会社の対応状態を記しておきます。
システム会社 |
Peppol対応ソフト |
備考 |
弥生 |
スマート証憑管理 |
PDFデータ等の保管も可能 |
OBC |
(発行側)請求管理電子化クラウド (受領側)支払管理電子化クラウド |
PDFデータ等の保管には別途「証憑保管クラウド」が必要 |
TKC |
インボイス・マネジャー |
PDFデータ等の保管も可能 |
M JS |
M JS e-Invoice |
PDFデータ等の保管も可能 |
※ 送信側のOBC以外、いずれも販売管理ソフト等からPeppol対応ソフトに請求データをアップロードが必要
今後、大手企業から徐々にデジタルインボイスが浸透していくものと予想されます。このような企業からの仕入等が多い会社はPeppolに対応して事務を省力したいものですし、また自社が売り手側の場合にも従前より大手企業から要求されている指定請求書等に対応しなくても良くなるチャンスと言えますので、是非、積極的な導入を検討してみてはいかがでしょうか。
執筆:川嶋 哲哉 kawashimat@yamada-partners.jp