1. STAUの開設
カンボジア政府は、2024年7月16日付で政令第160号を発布し、経済財政省(Ministry of Economy and Finance:MEF)の下で税収を管理する税務総局(General Department of Taxation:GDT)と同等の権限を有する特別税務調査機関(Special Tax Audit Unit)を開設しました。
STAUは、税務コンプライアンスの高い企業向けに税務調査の簡便化や迅速化を図るために新たに設けられた専門政府機関で、カンボジアにおけるビジネス、貿易、投資環境の改善を目的としています。具体的な管轄は、後述のゴールドステータスを付与された会社、およびGDTが設置する委員会によって選定された会社の税務調査に限定されます。
本政令第2条において、STAUは以下の役割と責任を持つことを規定しています。
- 現行の法律、税務調査の標準手続(SOP)に従った税務調査を行うこと。
- 机上調査および限定調査を実施せず、資料をレビューし、リスク分析を行った上で、包括調査だけを実施すること。
- SOPとリスク評価に基づいて、年間のSTAUにおける税務調査の計画を策定すること。
- 納税者の要請に応じて、SOPおよび現行の法律に従って税務調査を実施すること。
- 企業を税務調査の対象に選んだ理由について、企業に情報開示すること。
当該政令第8条では、STAUは、未解決かつ進行中の税務調査案件について、GDTの担当チームと協力し、解決するようGDTに要請することができると規定されています。STAUの創設は、カンボジアにおいて、税務調査の透明性と効率性を高める取り組みとして、2024年4月9日に策定された税務調査のSOPを標準化していくための前向きな第一歩といえるでしょう。
ただし、ゴールドステータスには2年間という有効期間があり、SOPを用いてSTAUがどのように選定企業に対し税務調査を実施するのか、またGDTが設置する委員会がどのように調査対象企業を選定するのか、具体的な手順については、さらなる明確化が必要であると考えます。
2. 税務コンプライアンス制度
2016年12月、経済財政省が発布したプラカス第1536号では、納税者の税務コンプライアンスの高さを点数化しており、ゴールドステータスが認められるためには、以下の加重基準表を用いて点数をつけ、20点満点中16点以上を獲得する必要があります。但し、証明書の有効期限は2年間となりますので、2年ごとに更新が必要です。納税者ごとの点数は、カンボジア子会社の管理において、指導する指標としても有効と言えます。
他にもシルバー(11~15点)、ブロンズ(1~10点)の分類がありますが、本稿においてはゴールドステータスを取得することのメリットについて解説をいたします。
番号 |
基準項目 |
点数 (20点満点) |
1 |
納税者は、税務登録および税務登録の更新を完了していること |
1 |
2 |
納税者は、税務登録の変更事由が生じた場合は、遅延なくGDTに届出を行っていること |
1 |
3 |
納税者は、すべての税務申告書を期限内に提出していること |
1 |
4 |
納税者は、すべての税金を期限内に全額支払っていること |
1 |
5 |
納税者は、適切な会計記録およびその他の必要な書類を保持していること |
2 |
6 |
納税者は、法律を遵守しすべての取引に対して正しく請求書を発行していること |
2 |
7 |
納税者は、税法第125条に規定される違反行為をおこなったことがない |
2 |
8 |
納税者は、税法第126条に規定される重大な過失行為を行ったことがない |
2 |
9 |
納税者は、GDTによって更正されたすべての税金、追加税、および利息を支払っている |
2 |
10 |
納税者は、虚偽の記録、書類、報告書、またはその他の誤解を招く情報を提出していない |
2 |
11 |
納税者は、会計記録およびその他の書類を確認するためのGDTの要求に協力している |
2 |
12 |
納税者は、関連当事者取引に対して適正に独立企業間価格(市場価値)を使用している
|
2 |
合計 |
20 |
ゴールドステータスの証明書が発行されれば、以下のようなインセンティブが与えられます。
- VAT監査を受けることなく、5億リエル(約12万5,000米ドル)未満のVATの還付請求が可能
- プラカス第576号において、VAT還付申請を1年以内に行うことを条件に40営業日以内の還付を約束していますが、ゴールドステータスを保有する場合は、さらにこの期間短縮
- 従来からゴールドステータスを取得しても2年に1回のみ包括税務調査(限定調査と机上調査は免除)を実施するとされていましたが、2024年4月9日策定の税務調査SOPにおいて、2年間の有効期間中は包括調査も免除(GDTが不正やリスクを認めた場合を除く。)
ただし、具体的なガイダンスが不足しており、GDTがどのようにリスクを評価し、ゴールドステータス企業に対する税務調査の必要性の有無を判断するかについては、十分に詳細が明らかとなっておりません。本SOPにおいては、リスクの判断について、GDTに対しある程度の裁量権を認めているため、このような基準の曖昧さを認識し、ゴールドステータス企業は、内部統制の強化、正確な財務報告、一貫した税務申告履歴を維持することは、リスクを最小限に抑えるうえで極めて重要であると考えます。
ゴールドステータスを取得するためには、GDTに申請が必要ですが、申請から証明書発行までにかかる期間は、通常1~2か月程となります。
- 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
- 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
- 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。
【 この記事の著者 】
坂本 佳代
税理士法人山田&パートナーズ 海外事業部
・カンボジア税法ディプロマ資格者
・カンボジア公認会計士・監査士協会(The Kampuchea Institute of Certified Public Accountants and Auditors)アフィリエイトメンバー登録者
2014年に日系コンサルティングファームに入所、2016年よりインド・バンガロールに駐在。2019年よりカンボジア・プノンペンに駐在。インド、カンボジアに会計事務所責任者として常駐していた約8年、現地日系進出企業の様々な悩みにワンストップで対応。(会計税務全般、進出及び撤退コンサルティング、登記及びライセンス登録業務、労務、国内取引及びクロスボーダー取引にかかる税務アドバイザリー、現地税務当局との折衝、抗弁書作成等の税務調査対応の経験多数)2024年に税理士法人山田&パートナーズに入社。