海外デスクレポート

2020年4月13日

シンガポールにおける新型コロナウィルスに対する経済支援の概要(賃金補償、固定資産税の還付、納税・申告期限の延長) 2020年4月11日時点

シンガポールにおける新型コロナウィルスに対する経済支援の概要(賃金補償、固定資産税の還付、納税・申告期限の延長) 2020年4月11日時点

執筆:シンガポール担当

シンガポールにおける新型コロナウィルスに対する経済支援の概要

シンガポール政府は、新型コロナウイルスの感染拡大への対応のため、2020年2月18日に64億SGD、3月26日に480億SGDの経済対策を発表しました。さらに、サーキットブレーカー(Circuit Breaker)と呼ばれる規制により、4月7から5月4日までの期間、職場や学校の大半を閉鎖することを4月3日に発表し、当該期間への対応のために4月6日に51億SGDの追加の施策を発表しました。これら合計で595憶SGD(約4兆5,620億円)の経済対策が行われます。

2020年4月11日時点で公表されている施策のうち、以下の施策のポイントを記載します。

(1) 雇用維持のための賃金補償 (Jobs Support Scheme)

(2) 非居住用不動産にかかる固定資産税の還付(Property tax rebate)

(3) 納税期限の延長

(4) 税金の申告期限の延長

(5) 法人の定時株主総会の開催期限及び年次報告書の提出期限の延長

なお、各施策の内容については、今後更なる拡充や期間延長が行われる可能性があるため、詳細は政府サイトをご確認ください。

1. 雇用維持のための賃金補償(Jobs Support Scheme)

  • 従業員の賃金の一定割合を補償する制度。対象期間は2019年10月~12月及び2020年2月~7月の9か月間
  • 補償割合は原則25%。影響の大きい航空、旅行、外食業界は割合を引上げ(表1参照)
  • サーキットブレーカーの期間である2020年4月は、全ての業種において賃金の75%を補償
  • 対象となる雇用者は、CPFの支払を行った雇用者(駐在員事務所、政府機関等を除く)
  • 対象となる労働者は、シンガポール国民及び永住権保有者
  • 補償額は、労働者1人あたり月額4,600SGDを上限として計算。月額総賃金には従業員負担のCPFは含まれるが、会社負担のCPFは含まれない
  • 事業主(個人事業主、株主兼取締役)に支払われた賃金は、対象外
  • 補償額はCPFの拠出額に基づき計算され、適用を受けるための申請手続は不要。IRASが雇用者に郵便で通知
  • 補償金の支払い方法は次の順番で決定される。①税金の支払いのためにGIRO(自動引き落とし)を登録している場合は当該登録銀行への振込、②PayNow Corporateを登録している場合は当該登録銀行への振込、③小切手の送付

【表1 業種ごとの補償割合】

セクター 対象 補償割合
航空業界及び 旅行業界 航空会社 空港地上支援業務運営者 一定の認可を受けたホテル 一定の認可を受けた旅行代理店 一定の博物館、テーマパーク等

月額総賃金
(労働者1人あたりの上限4,600SGD)の75%を補償

外食業界 一定の認可された飲食店及び屋台(ホーカー屋台を含む) 月額総賃金
(労働者1人あたりの上限4,600SGD)の50%を補償
上記以外の業界 全てのその他の雇用主 月額総賃金
(労働者1人あたりの上限4,600SGD)の25%を補償

※2020年4月については、全ての業種において月額総賃金(上限4,600SGD)の75%を補償

【表2 補償対象期間と補償額の受領時期】

支払時期 JSSの補償対象となる 賃金の支払月 CPF拠出金の 支払期限 補償額の 受領時期
第1回 2019年10月-12月 2020年2月14日 2020年4月
第2回 2020年2月-4月 2020年5月14 日 2020年7月
第3回 2020年5月-7月 2020年8月14日 2020年10月

参考:Jobs Support SchemeにかかるIRASの解説

https://www.iras.gov.sg/irashome/Schemes/Businesses/Jobs-Support-Scheme--JSS-/

2. 非居住用不動産にかかる固定資産税の還付(Property tax rebate)

  • 非居住用不動産について、当該不動産の種類に応じて、2020年1月1日から12月31日までの期間に係る固定資産税の一定割合が還付される
  • 不動産の保有者による還付申請は不要。2020年5月31日までに対象となる不動産の保有者にIRASから通知が行われ、6月30日まで還付が行われる予定(GIROの登録銀行への振込又は小切手)
  • 家主は還付を受けた金額について、賃料を減額することによりテナントに転嫁することが期待されている

【表3 不動産の種類に応じた固定資産税の還付率】

不動産の種類 還付率
ホテル法の規定に基づいて登記されたホテル サービスアパート MICE(会議、社員旅行、国際会議、展示会)の施設 チャンギ国際空港の施設、所定の国際クルーズターミナルまたは地域間フェリーターミナルの施設 ショップ、レストラン、スポーツ・レクリエーション施設、アミューズメント施設、映画館・劇場、幼稚園等、学校、建設労働者の寮、観光施設 100%
マリーナベイ・サンズ リゾート・ワールド・セントーサ 60%
その他の非居住用施設(オフィス、倉庫等) 30%

※ 空き地や開発中の土地についての還付はない

参考:Property tax rebateにかかるIRASの解説

https://www.iras.gov.sg/irashome/Property/Property-owners/Working-out-your-taxes/Property-Tax-Reliefs/

3. 納税期限の延長

  • 法人税の支払い(一時払いのもの、分割払いのもの)について、2020年4月~6月の間に納税期限がある場合、自動的に納税期限が3か月延長される(例:5月が納税期限の場合8月まで延長)/ 4月15日までにIRASからレターが送付される

https://www.iras.gov.sg/irashome/Businesses/Companies/Paying-Corporate-Income-Tax/Paying-Corporate-Income-Taxes/

  • 個人所得税の支払いについて、2020年5月~7月の間に納税期限がある場合、申請を行うことで、納税期限を3か月延長することができる
  • 法人が事業閉鎖等で財政難に陥った場合、個人が失業や収入の大幅な減少、高額の医療費の支出等があった場合など、予期できない状況により税金の支払いが困難となった場合には、IRASに支払計画を提出し承認を受けることで、より長期の分割払いが認められる。なお延滞した金額については延滞税として5%が課される

4.税金の申告期限の延長

  • 以下の表4に記載の4月が申告期限となる税金について、申告期限が自動的に延長される。

【表4 申告期限の延長の状況】

税目 延長前 延長後
2019年分(YA2020)の個人所得税申告 2020年4月18日 2020年5月31日
2020年3月に終了する四半期会計期間にかかるGST申告 2020年4月30日 2020年5月11日
2020年1月に終了する事業年度にかかる法人税の見積申告(ECI) 2020年4月30日 2020年5月31日
2020年4月が期限となる源泉所得税の申告(S45申告書の提出) 2020年4月15日 2020年5月15日
2020年4月に必要となる外国人従業員のタックスクリアランス(IR21の提出) - 1か月延長

参考:申告延長にかかるIRASの解説

https://www.iras.gov.sg/irashome/News-and-Events/Newsroom/Media-Releases-and-Speeches/Media-Releases/2020/IRAS-Extends-Tax-Filing-Deadlines;-Taxpayer-Counter-Services-by-Appointment-Only/

5.法人の定時株主総会の開催及び年次報告書の提出期限の延長

  • 2020年4月16日~7月31日の間に期限が到来する定時株主総会の開催期限を60日延長する。また2020年5月1日~8月31日までの間に期限が到来する年次報告書の提出期限を60日延長する
  • 2020年4月1日~4月15日の間に定時株主総会の開催期限が到来する場合、当該期限から60日以内に開催を行えば、ACRAからのペナルティは課されない
  • 延長のためのACRAへの申請手続は不要
  • 全ての上場会社、未上場会社を対象とする

参考:期限延長にかかるACRAの解説

https://www.acra.gov.sg/news-events/news-details/id/544

以上

 


  • 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
  • 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
  • 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。
  • 熊谷 仁志

    この記事の著者

    熊谷 仁志
    税理士法人山田&パートナーズ
    パートナー 公認会計士

    2004年入社。日本国内にて法人業務経験を経て、2016年4月よりシンガポールに駐在。日系企業の進出、現地での管理運営、組織再編を多数経験。2023年より日本に帰任し海外進出等のクロスボーダー案件に従事。
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