海外デスクレポート
2024年11月27日
カンボジア移転価格にかかる税制改正 (カンボジア)
カンボジア経済財政省(Ministry of Economy and Finance:MEF)は、2024年9月19日付でプラカス第574号を発布し、関連者間における所得及び費用配分に関する規定の追加、手続き、並びに文書化の要件を明確化しております。これは、2017年10月10日付プラカス第986号につづきカンボジア王国において二回目の移転価格税制にかかる発表であり、本プラカスをもって旧ルール(プラカス第986号)の規定は追加、改正されます。2025年1月1日以後に開始する事業年度より適用開始となりますのでご留意いただければと思います。
主な改正内容は、以下のとおりとなります。
1. 追加規定
条項 | 内容 |
第17条 第4項 文書化 |
前年度に移転価格文書を作成した納税者については、移転価格分析方法に影響を与える重大な変更がないことを前提として、直近に作成した文書を本年度も使用することができるものとする。(比較対象企業の財務指標を毎年作成する場合を除く。) |
第17条 第5項 文書化 |
銀行および金融機関以外の居住納税者は、税務総局(General department of taxation=GDT)が交付する指導書に定められた証憑書類の作成・保管を要件として、関連者間で取り決めた金利の利率について独立企業原則の遵守が免除される。 |
第17条 第6項 文書化 |
居住納税者(銀行および金融機関を除く。)が以下の要件に該当する場合は、第17条第5項に規定する証憑書類の作成が免除される。 ◇税務登録から3年未満に法人化された新設法人 ◇株主との間で貸付取引を行い、いずれかの期間における貸付残高が30億リエル(約75万米ドル)未満の単独株主私的有限責任会社 ◇所有者、配偶者、または扶養家族である子供との間で貸付取引を行う個人事業主 |
第17条 第7項 文書化 |
その課税年度が以下の両方の基準を満たす場合、移転価格文書の作成が免除される。(金額基準の追加) ◇年間売上高が80億リエル(約200万米ドル)未満であり、総資産が40億リエル(約100万米ドル)未満であること。 ◇貸付取引を除く商品、資産、サービス、ロイヤリティ、その他の管理取引の総額が10億リエル(約25万米ドル)未満であること。 |
第18条 恒久的施設(PE)への利益の帰属 |
|
2. 既存規定の変更
条項 | 内容 |
第1章 一般規定 第3条 定義 | ◇「関連当事者」の定義が拡大され、納税者によって直接または間接的に支配または支配されている企業、または納税者と共通の支配下にある企業、または恒久的施設と非居住者納税者の関係が含まれるものとする。 ◇「支配」とは、企業に対する直接的な持分価値の20%以上の所有、または企業の取締役会における議決権を意味する。この条件にかかわらず、税務当局は、各案件の具体的な事実に基づいて直接的または間接的な支配を評価し、支配の有無を判断することができる。
|
第7条 - 独立企業原則の範囲 | 支配取引から導き出された財務指標が、適切な移転価格分析方法により独立企業間価格の範囲内でテストされた場合、その支配取引は調整されない。一方、独立企業間価格の範囲外にある支配取引の財務指標は、税額の減額または損失が発生しない場合のみ、独立企業間価格の範囲の中央値に調整される。 |
プラカス第574号が発布される以前は、2017年に発布されたプラカス第986号の規定を参照しており、経済協力開発機構の移転価格ガイドライン(OECDガイドライン)に基づいた指針に準拠することとされていました。文書化の具体的な金額基準はなく、関連者は国外に限定されていないことから国内関連者にも当該規定は適用されるものとされています。
本改正により文書化の要件に金額基準が追加され、更に一次調整や二次調整といった移転価格調整が導入されたことは、移転価格ガイドライン(OECDガイドライン)に沿った重要な進展といえます。第7条では、独立企業間価格の範囲と移転価格調整を規定しており、カンボジアが中央値に重点を置くアプローチはタイと同じとなります。一方、調整レンジの範囲内であれば柔軟に調整可能としているシンガポールとは対照的といえます。カンボジアにおける二次調整の導入は、より強力な執行とOECD移転価格ガイドラインとのさらなる整合化に向けた動きであり、 カンボジアで事業を展開する企業は特に注意する必要があります。二次調整は多額の追加課税につながる可能性があるため、納税者は、税務調査が行われる可能性に備え、各移転価格取引に関し価格の設定根拠についていつでも説明可能な状態にしておくことが重要といえます。
また国際税務においてPEの重要性が認識されていることを踏まえると、カンボジアのPE規則に基づく利益帰属は、移転価格ガイドライン(OECDガイドライン)に沿ったより強固な移転価格体制を確立するための前向きな一歩であるといえるでしょう。
従来、カンボジアにおいてPEの指摘がなされることは極めて稀でしたが、本税制改正により、今後、国際基準に準拠していくことで、カンボジアは自国内におけるPEの取り扱いを透明化し、より成熟した移転価格体制を確立していくことが予想されます。
【 この記事の著者 】
坂本 佳代
税理士法人山田&パートナーズ 海外事業部
・カンボジア税法ディプロマ資格者
・カンボジア公認会計士・監査士協会(The Kampuchea Institute of Certified Public Accountants and Auditors)アフィリエイトメンバー登録者
2014年に日系コンサルティングファームに入所、2016年よりインド・バンガロールに駐在。2019年よりカンボジア・プノンペンに駐在。インド、カンボジアに会計事務所責任者として常駐していた約8年、現地日系進出企業の様々な悩みにワンストップで対応。(会計税務全般、進出及び撤退コンサルティング、登記及びライセンス登録業務、労務、国内取引及びクロスボーダー取引にかかる税務アドバイザリー、現地税務当局との折衝、抗弁書作成等の税務調査対応の経験多数)2024年に税理士法人山田&パートナーズに入社。
CONTACT US
弊社へのご質問、ご依頼、ご相談など
各種お問い合わせはこちらにご連絡ください。