海外デスクレポート
2024年3月22日
米国大統領選と米国連邦遺産税(個人) (米国)

現在、連邦遺産税の基礎控除及び贈与税の生涯控除は、Tax Cut and Job Actにより拡大され、2024年では13,610,000USDまで連邦遺産税は発生しません。この法律は、かつてトランプ前大統領時代に制定されたもので、通称「トランプ税制」とも呼ばれています。ただし、2025年末を期限に終了する時限立法のため、2024年の米国大統領選の結果が、連邦遺産税に影響を及ぼす可能性があります。
(参考)2024年米国大統領選の主なスケジュール
- 2024年3月5日 スーパー・チューズデー(各州の予備選等が集中する日)
- 2024年7~8月 民主党候補者、共和党候補者の決定
- 2024年11月5日 大統領選挙
- 2025年1月20日 新大統領就任式
(1) 仮にTax Cut and Job Actが予定通り終了した場合
仮にTax Cut and Job Actが予定通り2025年末で終了した場合、従来の基礎控除は大幅に減額されることとなります。ただし、インフレ調整法が別途あるため、終了後の基礎控除額は現時点では不明ですが、連邦遺産税最高税率40%は基礎控除を1,000,000USDを超える額に適用されるため影響が大きく、例えば、2026年の基礎控除が7,500,000USDになった場合、10,000,000USDの資産を有している方は最大で1,000,000USD、15,000,000USD以上の資産を有している方は最大で3,000,000USDの増税となります。
(参考)連邦遺産税基礎控除・連邦贈与税生涯控除
年 |
連邦遺産税基礎控除 |
インフレ調整率 |
法令 |
米国政権 |
2011 |
$5,000,000 |
― |
原則 |
民主党 |
2012 |
$5,120,000 |
2.4% |
||
2013 |
$5,250,000 |
2.5% |
||
2014 |
$5,340,000 |
1.7% |
||
2015 |
$5,430,000 |
1.7% |
||
2016 |
$5,450,000 |
0.4% |
||
2017 |
$5,490,000 |
0.7% |
共和党 |
|
2018 |
$11,180,000 |
1.8% |
TCJA |
|
2019 |
$11,400,000 |
2.0% |
||
2020 |
$11,580,000 |
1.6% |
||
2021 |
$11,700,000 |
1.0% |
民主党 |
|
2022 |
$12,060,000 |
3.1% |
||
2023 |
$12,920,000 |
7.1% |
||
2024 |
$13,610,000 |
5.3% |
||
2025 |
2024年下期公表見込み |
2024年 |
||
2026 |
新政権発足後に判明見込み |
※上記のインフレ調整率はインフレ調整額をもとに計算しております。また、TCJAは従来の基礎控除を2倍にした趣旨から2018年は2017年の2倍と比較によるものです。
(2) 州税の影響
米国では連邦税とは別に、18の州で独自に州遺産税又は州相続税もしくはその両方を課しています。
Tax Cut and Job Actにより遺産税の基礎控除に注目が集まっていることから、米国居住の資産家には、州遺産税又は州相続税がある18の州以外の州に州税対策で引越しを検討するケースも近年では出てきており、資産家の他州への流出が課題として州議会に取り上げらえるなど、州遺産税又は州相続税の見直しがたびたび議論されています。
州遺産税又は州相続税は州独自の税制であるため、例えば最高税率は6%~20%と州により大きく異なるだけでなく、基礎控除はゼロや連邦遺産税と連動するなど州により異なります。特に基礎控除が連邦遺産税と連動する州はTax Cut and Job Actの行く末が直接影響することになります。
(3) Tax Cut and Job Actの期限切れを見越した駆け込み贈与
米国在住の資産家では、Tax Cut and Job Actの有効な間に贈与を実行しようとすることを検討している方が多くいます。これは、連邦遺産税と連邦贈与税が一体的に計算される制度となっており、連邦贈与税の生涯控除の利用額は、将来の相続開始時の連邦遺産税の基礎控除として用いることができることになっているため、今のうちにTax Cut and Job Actで拡大されている連邦贈与税の生涯控除枠を最大限利用しておけば、相続開始時にTax Cut and Job Actが終了していたとしても、当該額を利用できるためです。
ただし、現在米国在住の日本人資産家にとっては、日本における贈与税の影響にも注意が必要です。これは日本の贈与税が、海外移住後に行う贈与であっても、贈与者・受贈者のそれぞれが日本を離れた時期や贈与資産の所在地によっては日本の贈与税が課されるためです。なお、これから米国移住を検討される方は、加えて国外転出時課税の検討も必要ですのでご留意ください。
- 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
- 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
- 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。
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この記事の著者
遠藤 元基
Yamada & Partners USA, Inc.
パートナー 日本税理士・公認不正検査士2007年税理士法人山田&パートナーズ東京本部入所、2011年福岡事務所開設・同所長就任。2019年よりベトナム及びタイに駐在。2023年より米国駐在。エステートプランニング、クロスボーダーM&A、グローバル組織再編、海外子会社不正調査など幅広い業務に対応。
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