海外デスクレポート

2020年3月25日

【連載】 ベトナムM&Aの実務 第2回 ベトナムにおけるM&Aの動向

【連載】 ベトナムM&Aの実務 第2回 ベトナムにおけるM&Aの動向

執筆:ベトナム担当

1. 増加するクロスボーダーM&A

● 2019年におけるクロスボーダーIn-Out M&A

2019年におけるクロスボーダーM&Aのうち、In-Out M&A(日本企業が買い手、外国企業が売り手となるM&A)の件数は826件となり、過去最多であった2018年の778件をさらに50件近く上回った。最も大きな案件となったのはアサヒグループホールディングスによるオーストラリア最大手ビール会社「カールトン&ユナイテッドブリュワリーズ(CUB)」の買収で、その買収額は約1兆2,000億円に及ぶ。当該買収はアサヒグループホールディングスとしても過去最大規模となる大型案件である。

クロスボーダーM&Aのうち、ASEAN地域におけるM&A件数は163件となり、2018年から20件以上の増加となった。国別ではシンガポールが64件と最も多く、ベトナムが33件、インドネシアが20件と続いた。最も大きな案件となったのはソフトバンク・ビジョン・ファンドによるシンガポールの配車大手「グラブ(Grab)」への出資で、その金額は14億6,000万USD(約1,600億円)となっている。

ASEAN地域以外のアジア諸国ではインドにおけるM&Aが大幅に増加し、2年ぶりに中国を上回った。

 

● ベトナムにおけるIn-Out M&A動向

ベトナムでは2018年まで毎年20件前後のM&A件数が続いていたが、2019年は33件と前年比150%の大幅増となった。図表3のとおり、業種としては情報通信の7件が最も多く、卸/小売、サービス、製造がそれぞれ6件と続いている。

 

 


2. ベトナムにおけるM&Aの傾向ベトナム

● 既存株式/持分の取得、増資によるM&A

ベトナムにてM&Aが実行される際、既存株式/持分の取得や増資といった形式が用いられることが多い。一方で、事業譲渡や合併などの組織再編は実務上の手続きが煩雑であり、また、ベトナムにおいて組織再編手続き関連の法整備が十分に行われていないことから利用されるケースは少ない。

● マイノリティ出資による事業展開

ベトナムにおけるM&Aはマイノリティ出資により行われることが多く、その割合は全体の約6割を占める。徐々に出資比率を高めていくケースも多く、2019年においては住友林業、大正製薬ホールディングス、日鉄物産などが追加出資を行っている。

3. 2019年におけるM&A事例

● 大正製薬による医薬品製造業に対する株式公開買付け

大正製薬ホールディングスの連結子会社である大正製薬は、株式公開買付けにて同社の持分法適用会社であったDuoc Hau Giang Pharmaceutical JSC社(DHG社)の発行済株式総数の15.78%を取得した。また、大正製薬は既存株主からDHG社の0.23%の株式取得も行っており、一連の取引を通じDHG社の発行済株式総数の51.01%を保有することとなった。DHG社を連結子会社とすることで、アジア市場における医薬品事業を一層強化することを目指していくとのことである。

なお、一連の取引により要した株式取得価額は約118億円(うち公開買付けによる取得価格約117億円)であった。

● 三井物産による水産加工業に対する出資参画

三井物産は、世界最大の海老生産加工事業会社であるMinh Phu Seafood Joint Stock Company (Minh Phu社)株式の35.1%を取得した。三井物産は2013年に同社傘下のMinh Phu Hau Giang Joint Stock Company (MPHG社)に出資参画しており、親会社であるMinh Phu社への出資を通じて、MPHG社に対して行ってきた取り組みをグループ全体に展開することを目指す。今回の出資参画における投資金額は約170億円であり、2019年におけるベトナムM&Aのうち最も規模の大きい案件となった。

● SBIホールディングスによるマーケットプレイス事業への出資

SBIホールディングスはベトナムのC2Cオンラインマーケットプレイス最大手であるSen Do Technology Joint Stock Company (Sendo社)が発表した第三者割当増資に関して、リードインベスターとして追加出資を実施した。約66億円の増資により出資比率合計は21.02%となっている。SBIグループでは引き続き同グループの経営資源の活用や取締役の派遣を通じてSendo社の事業成長を支援していく考えである。

図表4 2019年におけるベトナムIn-Out M&A案件

 

【ご参考】クロスボーダーM&Aマーケット情報(株式会社レコフ)
https://www.recof.co.jp/crossborder/jp/market_information/

 


  • 記載された内容は執筆者個人の見解であり、当税理士法人の見解ではないことをご了承ください。
  • 本記事の内容は一般的な情報提供であり、具体的な税務・会計アドバイスを含むものではありません。
  • 税制改正により、記載の内容と異なる取扱いになる可能性がありますことをご了承ください。
  • 前田 章吾

    この記事の著者

    前田 章吾
    税理士法人山田&パートナーズ 海外事業部 パートナー
    YAMADA & PARTNERS VIETNAM CO., LTD.
    日本国公認会計士

    2009年9月税理士法人山田&パートナーズに入所し、同シンガポール支店を経て、2013年9月よりベトナム駐在。ベトナムに関する会計税務をはじめ、不正調査・内部統制構築支援、進出・撤退やクロスボーダーM&Aなど幅広い業務を対応している。
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