税のトピックス

2024年7月22日

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青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除について

青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除について

1. はじめに

法人税の計算上、青色申告書を提出した事業年度に発生した欠損金は10年間にわたって、翌事業年度以降において損金の額に算入することができます。これを「欠損金の繰越控除」といいます。法人税の申告実務を行うにあたり、タックスプランニングの観点で、この欠損金の繰越控除は非常に重要な論点となりますが、思い込みによるミスのないように、以下の通り留意点を整理しました。

 

2. 欠損金の繰越期間

現行税制では、欠損金の繰越期間は10年です。これはもともと繰越期間が9年だったものが、平成28年度税制改正に伴い平成3041日以降開始事業年度より10年に延長された経緯があります。したがって、3月決算法人であれば、平成303月期までに発生した欠損金は9年、平成313月期以降は10年となります。例えば、平成283月期に発生した欠損金は、進行期である令和73月期に使いきれなければ切り捨てられることとなります。

 



3. 欠損金の繰越控除限度額

①欠損金を有する法人の資本金が1億円超である法人、または、資本金が5億円以上の法人による完全支配関係がある法人(直接的・間接的に資本金5億円以上の法人の100%子会社である法人)は、欠損金の利用に関し所得金額の50%が限度となります。一方で上記①②に該当しない法人(主に中小企業)はこのような制限はありません(100%の欠損金の利用が可能)。

これまで上記①②に該当せず欠損金をフルに利用することが当たり前の実務となっていたものの、今後グループの資本政策やM&A等によって資本関係の変更が予定されている場合には、例えば、合併等により資本金1億円超の法人となったり、株式を集約して資本金が5億円以上の法人の100%子会社となったりすると、欠損金の利用について所得金額の50%までという制限が課され、将来見込める所得金額によっては繰り越されている欠損金が使い切れず、切り捨てられる場合がありますので留意する必要があります。

 

4. 合併時の欠損金の引継ぎ

合併を行った場合、原則として被合併法人がこれまで繰り越して利用してきた欠損金は消滅し、合併法人で利用することはできません。例外的に要件を満たすことで被合併法人の欠損金を合併法人で引継ぎ、合併法人で利用することができることになっています。

それでは、被合併法人が有する欠損金でいつの事業年度からのものが合併法人で利用できるかというと、条文上、『合併の日前10年以内に開始した各事業年度において生じた欠損金』を合併した事業年度から合併法人で引継ぎ、利用できることと規定されています。

 

 

合併が期初でなく期中に行われる場合には、合併した事業年度から遡ってX-9期分までが取り込まれることに留意する必要があります(X-10期に発生した欠損金は対象外)。通常の欠損金は、『法人の各事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度に生じた欠損金額を、各事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入する』と規定されているため、そのイメージで判断すると誤ってしまう可能性があります。

 

5. 終わりに

上記のほか、留保金課税の適用を受けている法人が、繰り越されてきた欠損金を損金計上した場合、その金額は内部留保した所得に含まれることとされていることから、通常の法人税が発生せずとも留保金課税だけ課される場合があったり、100%の資本関係での合併で被合併法人の欠損金を法令上の要件を満たして引き継いだものの、その合併の主たる目的が欠損金の取り込みにあるとして、税務調査の際に課税当局から組織再編成に係る行為計算の否認規定に基づく否認を受けたり(それが裁判でも認められる事例がでたり)など、欠損金は思いもよらぬ場面で様々な論点がありますので、実務にあたっては常に法令・通達を確認して、慎重に検討・判断を行う必要があります。

 

執筆:山本 武尊 yamamotot@yamada-partners.jp

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