税のトピックス

2025年1月9日

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遺産分割時における自己株式取得の活用

遺産分割時における自己株式取得の活用

1. はじめに

保有する株式の発行法人に対して、その株式を譲渡する(以下「自己株式の取得」)と、株主が対価として受ける金銭等のうち、その法人の累積利益(法人税法上の利益積立金額)に相当する部分は、配当課税の対象となります。経済的に剰余金の配当と同様と考えられるためです。配当課税となる場合、個人株主には給与所得などと同様に、総合課税がなされ、最高で55.945%※の課税がなされます(ただし、配当控除あり)。買取価額が高額な場合、所得税の負担が大きくなるデメリットがあります。

※税率はすべて所得税、住民税および復興特別所得税を含んでいます。

 

2非上場会社オーナーの遺産分割問題

非上場会社のオーナーの個人資産は、ほとんどが自社株式ということも少なくありません。相続人が複数の場合には、当該自社株式を相続する者(一般的には後継者)と他の相続人との間で遺産分割協議が難航することがあります。そのため、遺産分割協議が未成立のまま、複数の相続人で自社株式が共有(準共有)されている状態で放置されていることがあります。また、自社株式を複数人で分割することにより、経営非関与の相続人に自社株式が分散していることも良く見かけます。このような場合、株主総会の運営が困難となり、会社の意思決定が滞ることも考えられ、望ましいものでないと思われます。

 

3. 相続時における自己株式の取得に関するみなし配当特例

相続税の申告期限から3年以内(一般的には相続開始から310か月以内)に行う自己株式の取得については、配当課税がなされず、所得の全額が株式の譲渡所得課税(税率は一律20.315%)となる特例があります※。すなわち、当該特例を活用することにより、一定期間に限ってみなし配当課税を受けずに(一律20.315%の課税で)非上場会社から資金を個人に還流することが可能ということです。株価が高額となっている非上場会社は、過去の好業績による余剰資金があることが多く、この余剰資金を遺産分割の際の代償金に充てることも検討の余地があると考えられます。

※相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例(以下、「みなし配当特例」)。ただし、その者に相続税が生じていることや金銭を対価とする自己株式の取得であること等の要件を満たす必要があることに留意ください。

 

4. 自己株式の取得の主な手続き

自己株式の取得は会社法上の手続きを適正に行っていく必要があります。分配可能額(一般的には会計上の剰余金額)があることはもちろん、株主総会の決議※等が必要となります。

手続きの中で、取得する株式の数や金銭等の総額等を明確にすることとなりますので、他の株主の反応等を事前検討したうえで慎重に進める必要があります。

※株主との合意による有償取得(原則的方法。いわゆるミニ公開買付)の場合には、普通決議となり、特定の株主からの自己株式の取得の場合には、特別決議となります。

 

5. 留意点

自己株式の取得を検討される際には、会社法上の手続きや所得税の他、以下のような点に留意する必要があります。

  1. 議決権割合の変動
    自己株式に議決権はありません。自己株式数が増加することにより、相対的に他株主の議決権割合が増加することとなります。
  2. 会社の財務への影響
    自己株式の取得により、交付した金銭等は社外に流出することとなります。会計上は、純資産額のマイナス項目として表示され、自己資本比率の低下等を招くこととなります。
  3. その他税務に関する留意点
    低額取得となる場合には、売主へのみなし譲渡課税や他株主へのみなし贈与課税が生じることがあります。事前に税理士等専門家と検討の上で行うことをお勧めします。

 

6. おわりに

本稿は、相続開始後の遺産分割を中心に記載しましたが、本来は事前に自社株式の承継を含む事業承継対策を検討することが望ましいです。みなし配当特例も、相続によって承継した自社株式のみでなく、相続時精算課税制度や事業承継税制を活用した生前の贈与によって取得した自社株式についても適用可能です。

事業承継対策は、早い時期から検討を始めることにより、選択肢も多くなります。是非、弊社担当者までお気軽にお問い合わせください。

 

執筆:山本 亮太 yamamotor@yamada-partners.jp

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