法人版事業承継税制適用へ、2024年中に対応すべき後継者の役員要件
1. 税制改正による期間延長
法人版事業承継税制の特例措置(2027年12月31日までの非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税猶予・免除制度、以下「本制度」)を適用するためには、2024年3月31日までに、特例承継計画を都道府県知事に提出する必要があります。
しかし、2023年12月22日に閣議決定された「令和6年度税制改正の大綱」によると、特例承継計画の提出期限が2026年3月31日まで、2年間延長される見込みのようです。
<特例承継計画の提出期限の変遷>
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平成30年度
税制改正
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令和5年度
税制改正
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令和6年度
税制改正(案)
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特例承継計画の
提出期限
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2023年3月末
(創設)
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2024年3月末
(1年間延長)
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2026年3月末
(2年間延長)
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2. 本制度の概要
本制度は、同族会社の非上場株式等を贈与または相続した際の当該株式等に係る贈与税または相続税の納税を猶予(将来、免除要件を満たせば免除)するものです。
一般的には次のステップにより本制度の適用を受け、猶予・免除(または納付)となります。
STEP 1:特例承継計画の提出・確認(この期限が2026年3月31日まで、2年延長)
STEP 2:対象株式等の贈与または相続(2027年12月31日までの贈与または相続)
STEP 3:認定申請(原則として、贈与または相続に係る申告期限の2ヶ月前まで)
先代経営者の要件、後継者の要件、対象会社の要件など、複数の要件を満たす必要があります。
STEP 4:税務申告(納税が猶予される)
納税を猶予するために、担保提供などの手続きも必要です。
STEP 5:特例経営承継期間(原則、申告期限から5年間)の要件維持による猶予継続
一定の要件維持だけでなく、毎年、都道府県と税務署に届出が必要です。
STEP 6:当該期間経過後(5年経過後)の要件維持による猶予継続
一定の要件維持だけでなく、3年ごとに、税務署に届出が必要です。
STEP 7:免除要件を満たすことによる免除申請(免除届出)
※免除までの間に、期限確定事由に該当した場合(猶予継続の要件を維持できなかった場合など)には、利子税を加えて納税が必要。
3. 注意すべき後継者の役員要件
本制度の適用を受けるためには様々な要件を満たす必要がありますが、特に期限を意識する要件として、特例承継計画の提出があります。前述の通り、この期限が延長されることにより、本制度を適用するための準備は先送りしても問題ないと思われるかもしれませんが、「後継者が対象会社の役員である」という要件には注意が必要です。
<本制度適用のための後継者の役員要件>
相続の場合
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相続開始直前において対象会社の役員であること
(被相続人が70歳未満で亡くなった場合や特例承継計画の確認を受けている場合は、この要件なし)
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贈与の場合
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贈与日まで引き続き三年以上にわたり対象会社の役員であること
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(1)相続の場合(計画的な承継ができないので、万が一の時のための準備)
先代経営者が70歳以上の場合には、特例承継計画の確認を受けている場合を除き、相続発生直前において後継者が役員であることが求められます。相続は急に発生することもあるので、先代経営者が70歳以上の場合は、早期に特例承継計画を提出しておく、または、特段の支障がなければ後継者を対象会社の役員に就任させておいた方が良いでしょう。
(2)贈与の場合(計画的な承継のための準備)
本制度の適用を検討する場合には、一般的には贈与(計画的な承継)で計画します。
贈与の場合には、贈与日まで引き続き三年以上にわたり対象会社の役員であること、が求められます。「引き続き」となっていますので、贈与日まで3年間継続して対象会社の役員であることが必要です。
本制度の適用期限は2027年12月31日ですから、2024年12月31日までに後継者が対象会社の役員とならなければ、贈与承継で本制度の適用をうけることができません。例えば、後継者が、対象会社の役員を一時的に退き、他のグループ会社の役員になることが予定されている場合は注意が必要です。累積3年間では適用できません。
また、組織再編を予定している場合も注意が必要です。例えば、新たに持株会社を設ける予定があるのなら、2024年12月31日までに後継者がその新会社の役員であることが必要ですから、2024年中に組織再編を終えるか、組織再編の前に本制度適用の贈与を行う(その後、再編をしても猶予継続見込)か、検討する必要があります。
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執筆:保谷 智洋 houyat@yamada-partners.jp