1. 信託の仕組み
信託とは、「自分の大切な財産を、信頼できる人に託し、特別な誰かに、又は自分自身のために管理・運用・処分してもらう制度」です。財産の管理・運用・処分を、誰かのためにどのような目的で行うのかということを自らが決めて、信頼できる人に託すことが、信託の特徴です。
財産を信託された人(受託者)は、財産を信託した人(委託者)の決めた目的を達成するために、信託された財産を管理・運用・処分します。その託された財産や運用益を特定のひと(受益者)に給付するなどして、その目的を達成することです。
また、信託が終了した時には残っている財産を特定の誰かに継がせることを定めることで、安全に財産を承継させることも可能な制度です。
信託とは、委託者、受託者、受益者の三者の関係に基づく制度ですが、委託者自らが受益者になることも可能ですし、委託者と受益者が異なることも可能です。信託は、誰かのために財産を管理・運用・処分できるだけでなく、自分のために財産を管理・運用・処分することもできます。
2. 信託の目的・役割
信託の目的は、委託者が自由に決めることができます。その中でも信託には主に次の4つの役割を持たせることが多いです。
- 子供の教育費や老後の資金の確保のために資産を運用すること
- 将来の老後や障害者の子供がいる場合の資産を守るために資産の管理をすること
- 子供や孫などの世代のために資産を承継すること
- 環境の整備や教育のための奨学金、学術分野の研究などに広く資金を役立てる社会貢献をすること
3. 家族信託
家族信託とは、自分に代わって家族や身近な親族などが受託者となり、財産の管理・運用・処分を行います。家族信託には以下のようなメリットがあります。
認知症により自分で財産管理ができなくなってしまった場合には、銀行口座からの振り込み、不動産の売却、不動産の大規模修繕の契約等の本人の意思確認が必要な行為を行うことが出来なくなってしまいます。しかし、家族信託を利用すれば、元気なうちに財産を家族・親族に託して、本人の代わりに契約を任せることができるので、後に認知症により本人の意思能力が低下してしまったとしても、資産が凍結されてしまう心配がありません。障害をお持ちの子供がいる場合、その子供の将来の生活の安定を図るために活用することも可能です。
親である自分を委託者、障害をお持ちの子供の兄弟等を受託者、障害をお持ちの子供を受益者とする家族信託を組成することです。両親が亡くなったとしても、受託者である兄弟等が引き続き資産の管理・運用・処分を行うことで、その障害をお持ちの子供の生活費や医療費等の支援を引き続き行うこが可能になります。受託者が財産の管理が継続できなくなった時に備えて、その次の受託者を事前に定めることも可能です。
4. 信託にかかる契約書
家族信託契約書には、私文書と公正証書があります。コストをかけずに手軽に作成できるという点から私文書の作成を選択する方もいらっしゃると思います。しかし、金融機関での信託専用口座の開設ができない等の弊害が生じます。特に長期にわたる家族信託では、受託者の個人口座での資金管理はリスクを伴いますので注意が必要です。
一方で、公正証書で作成すれば、その証明力が高くなります。公正証書は、偽造や改ざんのリスクが極めて低く、契約の有効性を巡るトラブルを効果的に回避できます。さらに、公正証書は公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの心配がなく、必要に応じていつでも再発行が可能です。これは、長期にわたる家族信託において、非常に重要な要素となります。信託口口座の作成や不動産の信託登記も、公正証書があればスムーズに進めることができます。家族信託の契約書を公正証書で作成することは、安全で確実な家族の未来を築くためには必要な選択になります。
執筆:下村 武司 shimomurat@yamada-partners.jp