「公益信託に関する法律」が2024年5月22日に公布され、大正時代に作られた「公益信託ニ関スル法律」が全面的に改正されました。これまでの公益信託は、主務官庁による許可や監督の基準が不統一であるなど実用的ではない部分も多く、大幅な改正となりました。公益法人制度と平仄を合わせた制度設計に変更した点も多く、公益信託の利用促進が期待されます。なお、「公益信託に関する法律」の施行は、2026年4月となる見込みです。
「公益信託」とは、受益者の定めのない信託であって、公益事務を行うことのみを目的とする信託のことであり、「公益事務」とは、学術の振興、福祉の向上その他の不特定かつ多数の者の利益の増進を目的とする事務のことです(新公益信託法2条1 項)。新公益信託法は、別表にて23項目の公益事務を例示しています。この内容は、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」における公益事業の例示とほぼ同一です。
公益信託は、公益法人と同じ役割を期待されているにも関わらず、十分に活用されてきませんでした。その理由は、①前述した許可監督の基準が不統一であるからに加えて、②税法上の優遇措置を受けるための要件が厳しい条件であったからです。
本改正によって、主務官庁による許可・監督制を廃止することになりました。今後は、公益認定と同様に行政庁が公益認定等委員会又は都道府県に置かれる合議制の機関の意見に基づき、公益信託を認可することになります。公益信託の受託者に対する報告徴求及び検査、勧告及び命令並びに認可の取消しについても公益法人と同等の規定が設定されており、許可監督の基準の明確化しました。
なお、税法上の優遇措置は公益信託法の改正の直接の内容ではありませんが、令和6年度の税制改正の中で、関係既定の整備が行われました。
その他の改正についても重要なポイントを二つ説明します。
まずは、受託者の範囲が拡大しました。新公益信託法では、法人だけでなく、個人も受託者となることができる建付けが採用されています(新公益信託法8条2項)。これまで公益信託における受託者は、主に信託銀行が担ってきました。しかし、事業型の公益信託(美術館、学生寮、子ども食堂の運営等の事業型の公益信託)を想定する場合、元々それらに類似する事業を行っている者を受託者とすることが考えられます。例えば、学生寮を運営する場合、受託者は、学生への居室、食事の提供、学生寮の保存・改築費用、それらの費用に充てるための信託財産の売却、金銭の借入などの信託事務を行うことが想定されます。
もう一点、信託できる財産の範囲についても拡大されることになりました。これまでの公益信託は、税法上の認定特定公益信託及び特定公益信託の要件として、信託財産を金銭に限られていました(所得税法施行令217条の2第1項3号)。
新公益信託法は、金銭だけでなく、美術品や不動産などの幅広い財産を信託財産とすることも想定されています。なお、株式は、その会社の事業活動を実質的に支配するおそれがない場合として政令で定める条件を満たす場合に限り、信託財産とすることができます(新公益信託法8条12号)。このルールは、公益法人の認定のルールと同様の条文となっています(公益認定法5条15号)。今後、政令やガイドラインの内容が明らかになることを待って、株式の公益信託の実用性を判断することになるでしょう。
公益信託は、今回の全面的な改正によって飛躍的に利用しやすい制度に生まれ変わりました。今後は、公益法人制度と並んで、社会貢献のためスキームとして活用されていくことが期待できます。
執筆:田中 康敦 tanakay@yp-law.or.jp